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332 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/03/15(日) 23 19 17 ID ITNokvO.0 概ね好評のようなので安心しています。 まだ続きが書けていないので、設定の細かいところについて補足を。 ・全体的に、くろべえさんのような精確で精密な考証はあまり期待しないで下さい。その点を期待されると、幻滅されると思います。 学者ではないし、精確な考証をする能力も無いので、「ファタンジー風読み物」として書いていますので。 史実の知識については、私はここの常連の皆様に劣ると思いますので……。 ・最初に文明レベルを中世~近世程度と書きましたが、出てくるイルフェス王国などの一部列強国は史実の19世紀レベルの技術分野もあります。 中世というのは辺境地域のレベル、近世というのは中等国~列強ではない一等国のレベルです。 ・F世界の主食は、小麦(西大陸の殆どと東大陸北方)と米(東大陸南方)です。 遺伝子的にも皇国のものと交配可能で、現実の小麦や米と全く同じと思って差し支えありません。 芋類や豆類も広く栽培されていますが、これらは「主食」とはみなされていません。 ・農業は、広く肥沃な大陸に少ない人口。開墾も進んでいて、西大陸だけで農地面積自体が史実の近世西欧の数倍あります。 非常に広大な農地を共同で管理する形で、農業生産量は列強国では史実の西欧近世の3倍~6倍程度はあると考えています。 「質が低いなら数で補う」感じの農業形態ですが、「大軍を動かす理由付け」なので、あまり深く考えないで下さい。 ちなみに一部では人糞なども肥料に使われています。 ・それにしても、大軍を動かすのは兵士の腹を満たさねばなりませんので、遠征軍は略奪上等です。 国土防衛軍であっても、場合によっては自国で略奪する破目になります。軍隊は動き続けないと飢え死にします。 ・F世界の遠戦武器ですが、先進国で滑腔式のフリントロックマスケット、中進国でマッチロックマスケット、辺境の後進国で弓やクロスボウです。ライフルは存在しません。 大砲は、陸戦の野戦砲として用いられるのは約2.5kgの鉄球を撃ち出す砲です。史実の6ポンド砲とほぼ同等の性能です。 ・常備軍についてですが、F世界の各国(列強国)が平時に「常備」しているのは士官や下士官、兵の一部の基幹要員のみで、 戦時に大量の平民を動員(強制徴集)することで一気に十数万~数十万単位の軍を編成します。 騎竜兵や騎馬兵、砲兵、工兵等の専門性の高い部隊はそうはいきませんが、陸軍の7割以上は歩兵なので。 なので、軍全体の質は低いです。鉄砲が大量に行き渡っているのも、このような軍備体制と無関係ではありません。 今回の戦いのように、指揮官の撤退命令が出るまで両軍から脱走者が出なかったというのは、それだけでも精強な証しです。 海軍も状況は似たようなもので、奴隷や奴隷同然の強制徴募兵が殆どです。 志願して水兵になった場合は賃金で優遇されますが、艦内での奴隷同然の扱いは他の奴等と同じなので、率先して志願する奇特な人はまず居ません。 将兵の待遇が良いのは、全員が准騎士以上の士格である空軍(飛竜軍)のみかもしれません。 ・兵力過大なので、秋~冬場は勿論、春~夏場であっても戦争が長引くと自国の農業に大打撃があるので、フル動員するという事は稀です。 ・竜について詳しく書いていなかったので、補足ですが、この世界の竜はいわゆる炎や毒の「ブレス攻撃」はしません。 「ただの恐竜の生き残り」と思っていただくのが一番理解が早いかと思います。 飛竜については、「翼竜ではなく恐竜の一種として飛行可能に進化したもの」です。 戦竜については、有名どころの「トリケラトプス」あたりをご想像下さい。 ・皇国語とF世界語 文書にすると当然通じないのですが、口頭で話すと何故か通じてしまうのです。 このあたりは、F世界の神話にも関わってくる事項なのですが、私自身も何故通じてしまうのか案を練っていません。 335 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/03/16(月) 11 35 00 ID ITNokvO.0 応援ありがとうございます。 拙い内容ですが、完結できるように尽力します。 勢いとノリの、なんちゃって火葬戦記 私自身、今投下している小説がまさにそれだと思っています。 なのでこの先いつ、皆様からお叱りを受けるかびくびくしています。 どの辺りまでが許される範囲なのか、空気読めてない場合は叱ってやって下さい。 F世界の竜 F世界の「竜」ですが、恒温動物です。 なので、必要な食物量はえらい事になります。 豊かな列強国にとっても、飛竜や戦竜の維持には苦労しています。 「(F世界の)人類でも維持できる範囲の動物」としては限界の大きさでしょう。 騎竜兵の運用コストは非常に高く、騎馬兵の運用コストが可愛く見えるほどです。 「だったらその金で騎馬兵や歩兵を大量に動員してもいいのではないか?」 という問題は列強国で度々議論されています。 しかし、主に「列強国の威信」と「飛竜や戦竜の仕事は馬や象では代替不可能」、 「敵が持ってるから自分も」という理由で、なんとなく廃止されずに今に至ります。 中進国では一部の国が竜を保有しますが、少数でお飾りの感があります。 後進国や辺境国では常備軍としての竜部隊は存在せず、 必要ならば(辺境国同士の戦争に竜なんて通常必要ありませんが) 野生の竜を数頭捕まえてきて敵陣に突っ込ませるという手段が取られたりします。 国民にとっては、「我が国の軍隊には竜隊がある!」というのは非常に鼻が高いことで、 そのために税金が高くなっている事はあまり気にしません。 コストが非常に高いので、軍事用途以外の民生利用はごく一部を除いてされていません。 「ごく一部」とは、通称「戦竜ファイト」と呼ばれる、 竜対竜あるいは竜対人間の戦いを見世物にするスポーツです。 裕福な貴族や大商人などが趣味で飼うこともあります。 現代日本の高級外車やクルーザーなどと同じく、「富豪のステータス」の一種として飼うのです。 F世界のマスケット 一応、火皿には火蓋が標準装備なので、晴天時より不発率は上がりますが、 霧とか小雨程度であれば発射が全く不可能というわけでもありません。 勿論、通常程度の雨であれば着火はまず不可能ですし、 皇国軍の「雨でも撃てる」とは次元が違いますが。 F世界の銃に金属薬莢の技術はありません。 ですが油紙製の早合が存在し、列強国を含む多くの国で採用されています。
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7月5日午前3時 サイフェルバン沖北20マイル地点 米軍は橋頭堡の守りを固め、夜までに2万4千の将兵が、橋頭堡に上陸した。作戦の第1段階は成功であった。 この日の夜、輸送船団の警戒にあたっていた重巡洋艦サンフランシスコ軽巡洋艦ブルックリン、デンヴァー、モービル、 駆逐艦ルイス・ハンコック ステファン、マグフォード、ドーチ、ガトリングは、サイフェルバンの北20マイル地点で行ったりきたりしていた。 部隊は2部隊に別れ、サンフランシスコ、ブルックリンとルイス・ハンコック、ステファンがAグループ。 デンヴァーとモービル、マグフォード、ドーチ、ガトリングがB部隊に分かれて警戒任務についている。 B部隊の司令官である軽巡洋艦モービル艦長のクルーズ大佐は、艦橋でコーヒーを飲んでいた。 「副長、警戒任務といっても、バーマント軍はまともな艦をもたないだろう?そんな海軍が、装備優秀な艦艇のいる輸送船団に攻撃 を仕掛けるとは思えんのだが。」 副長のロスワード中佐が苦笑する。 「まあ、いいたいことは分かりますよ。しかし、バーマント軍は鉄道も、油で動く船も持っていたそうですよ。予想以上に 科学力が進んでいるようです。ですからそんな国の海軍にも、それ相応の技術が詰め込まれているかもしれません。それに いくら貧相な軍艦が襲ってきても、相手は本気ですから放っておくと危ないですよ。」 「まあ、確かにそうだろうな。だが、敵艦なんて鉄製といってもお粗末なものだろう。到底無茶するはずがないと思うのだがな。」 彼はそう言ってコーヒーをすすった。時間は午前3時。開けられた窓からひんやりとした夜風が、艦橋内に入ってくる。 それが艦長の眠気を加速させた。 (副長にゆずって2時間ほど仮眠するか) 彼がそう思い、副長に言いかけたとき、 「CICより報告!未確認艦発見!」 クルーズ艦長はすぐさまCICに確認の電話を取る。 「未確認艦だと?何隻いる?」 「合計で10隻です。うち6隻は巡洋艦クラス、4隻は駆逐艦クラス。25ノットのスピードで 南下しています。」 「南下・・・・・・もしや、バーマント海軍か?」 バーマント海軍第2艦隊は、時速25ノットのスピードでサイフェルバン沖に向かっていた。 艦隊の先頭を行く高速戦列艦ガスタークの艦上に、艦隊司令官であるデイトル・ワームリング少将 は、じっと前の海域を見つめていた。 バーマント海軍は、ヴァルレキュアの輸送船を、帆船の破壊船で行っていたが、帆船ではスピードが あまり早いとは言えず、せいぜい20ノットまでが限界だった。 それに、最近ではヴァルレキュア海軍が、輸送船に擬した軍艦で破壊船を見つけるや否や、たちまち 撃沈したり、輸送船にも恒常的に大砲が積まれ、破壊船に反撃をしてくる。このため、破壊船の 損失が20隻、損傷が12隻と馬鹿にならない被害を受け、海軍司令官からは、より早く、より頑丈で より大き目の大砲を積んだ船を、と言う性能が求められた。 そこで開発されたのが、ガスターク級高速戦列艦である。1097年に1番艦ガスタークが就役して以来 9隻が建造された。 そして実戦配備されているのが6隻である。14,3センチ砲を防盾式の連装砲にまとめて、 全部に2基、後部に2基配置し、さらに8センチ砲を12門搭載している。 艦の真ん中には小さな艦橋があり、そこで艦長が指揮をとっている。速力は28ノットまで出す ことができ、世界で最速の軍艦である。 一方、後方の小型戦列艦も9センチ砲を4門搭載し、これも28ノットのスピードで航行できる。 この二つの艦種も、バーマントで初めて油を燃料とした軍艦である。その事から、今後の通商 破壊に大きな功績を残すものと期待されている。 そんな中、第8艦隊にサイフェルバン沖の異世界艦隊の攻撃を命じられたのである。 「正直、初めて戦う相手だ。どんな武器を使い、どんな方法で我々に対応してくるのだろうか。」 ワームリング少将は、不安そうにそう呟いた。 「なあに、司令官。この艦はかつてないほどに重装甲で出来ているのです。異世界軍の軍艦 ごときに引けはとりませんよ。」 楽天的な性格である艦長が、笑みを浮かべて彼を励ました。 「そうだな。調子に乗っている蛮族共を叩き殺してやるか。」 彼も獰猛な笑みを浮かべて答えた。その時、右横にいた中年の魔道師が表情を変えた。 「司令官、前方の海域に生体反応があります。」 「何?まだサイフェルバンまで30キロ以上あるぞ?」 「敵の警戒部隊のようです。」 「警戒部隊か。」 彼は腕を組んだ。そこですぐに思い立った。 「警戒部隊は前方遠くにいるのか?」 「はい。およそ20キロほどです。」 「砲の射程外だな。よし、迂回するぞ。」 ワームリング司令官は艦隊進路をいったん南東に向けて、警戒部隊をやり過ごすことにした。」 それから30分後、突如、右舷の海面から何かが光った。それは発砲の閃光だった。 ヒューッという空気を切り裂く音が極大に達した。と思った瞬間、右舷海面に水柱が立ち上がった。 ドーンという音と共に8本の水柱が、ガスタークの右舷600メートル付近で上がる。 「見つかったのか!?」 彼はなぜと思った。夜間なら、ある程度速度を落とし、近寄らず、ひっそりと進めば敵に発見 されずに済んだはずだった。現に何度かこの方法でヴァルレキュアの輸送船を襲って成功して いる。今回も成功するはずだった。だが、彼らの艦隊はあっさり見つかっていたのである。 一方、こちらは軽巡モービル 「敵艦隊、わがB部隊を迂回しようとしています。」 CICからの報告に、クルーズ大佐は眉をひそめた。 「何だと?という事は、敵は我々を見つけたのかな?」 「敵にはレーダーがありませんが、魔道師が乗っているはずです。」 副長が助け舟を出す。 「ああ、魔法使いか。」 「はい。バーマントの魔法使いは、人間の生体反応を感知できるのが居ると聞いています。 おそらく、この魔法使いが、我々のレーダーのような役割を果たしているのでしょう。」 その答えは半ば違っていた。確かに反応は読み取って、数や船が居ることを探れることはできる が、正確に米艦隊の位置を特定できるまではできない。 それに対して、モービルのレーダーは、しっかりとバーマント艦隊を捉えていた。距離はおよそ15マイル。 「もう少し様子を見てみよう。」 そう言いながら、彼はA部隊の旗艦、サンフランシスコに連絡を取った。 距離が10マイルになってもバーマント艦隊は発砲してこなかった。逃げるどころか、速度を 落としてこそこそと逃げるように前進を続けている。 「よし。発砲しよう。左砲戦!」 4基の3連装砲塔が左舷側に向く。砲身が生き物のように動き、狙いを定めている。 目標は、バーマント艦隊だ。 「敵艦の速力、16ノット、距離10マイル。」 CICからの報告が入る。そこへ、 「各砲塔、発射準備良し!」 の報告が入った。 「オープンファイア!」 クルーズ艦長が号令する。それを待っていたかのように、各砲塔の1番砲が火を噴いた。 ドドーン!という腹にこたえる様な音が響き、衝撃が艦橋に叩きつけられる。 後方のデンヴァーも6インチ砲を放った。デンヴァーは2番艦、モービルは1番艦に割り当て を決めた。 「弾着、今!」 4発の砲弾は、全て敵艦の前に落ちた。距離は約800~600付近。 「まあまあかな。」 クルーズ艦長は双眼鏡で眺めながらそう呟いた。その時、敵1番艦に動きがあった。敵艦は 速力を上げ始めた。さすがに発見されたことに気付いたのだろう。 敵艦から光が放たれた。敵も発砲したのである。その時、敵艦の艦影が一瞬ながら見えた。 シルエットは、4つの砲塔らしきものの真ん中に小さな構造物と、3本の煙突である。傍目 では英海軍の巡洋艦に似ている。 その時、米艦隊の上空がぱあっと輝いた。 「照明弾!」 彼は思わずそう叫んだ。見つからないのなら視界を広げればいい。そんな意図が見えたような気がした。 「流石は文明国バーマント。虐殺だけが取り柄ではないようだ。」 その声を掻き消すかのように、2番砲が放たれた。ドーンという音と共に6インチ砲弾が敵艦に向かって 放たれる。 さらに20秒後に3番砲を放った。この間に敵艦も砲弾を撃ってきた。 砲弾特有の甲高い音が聞こえ、それが最も大きくなったとき、音はモービルを飛び越えた。 モービルの右舷側に8本の水柱が立った。距離は1000メートルほど。 「甘いな。」 クルーズ艦長は、敵の照準の甘さに嘲笑を浮かべた。20秒後に1番砲が再び火を噴いた。 そして、1番艦が発砲したとき、敵艦の左右に4本の水柱が立ち上がった。 夾叉弾を得たのだ。これは命中精度が高くなっていることを意味する。 一方、14キロ先の敵艦は8門全てを撃っているが、いっこうに当たらない。 先よりも弾着は近くなっているが、それでも艦を飛び越えたり、艦のはるか手前で空しく水柱を上げている事が多い。 2番砲が発砲された。相変わらずの振動と衝撃が、艦橋をひっぱたく。今度は左舷側に3本、 右舷側に1本の水柱が立ち上がった。 敵艦も負けじと撃ち返す。だが、モービルの優秀な弾着とは対照的に、敵1番艦の射撃はうまい とはいえず、今度も手前の海面に空しく水柱を上げた。 「砲術!もう少しだぞ!!」 クルーズ大佐はそう叫んだ。そして、3番砲が発砲された。砲弾はまっしぐらに敵艦に向けて 落下していく。 次の瞬間、敵艦の中央部に発砲とは異なる閃光がきらめいた。だが、それと同時に薄緑色の 光も混じっていた。 「今のはなんだ?」 彼はふと、混じっていた異なる色が気になった。だが、それを吹き飛ばすかのようにさらに 1番砲が発砲され、交互撃ち方が続けられる。 後方の海域では、分離した駆逐艦と小型戦列艦の砲戦が行われている。戦闘能力が格段に劣る 異世界の軍艦とはいえ、乗っている乗員の錬度は高そうだ。 その証拠に、今に至っても発砲の光がさかんに起こっている。 敵主力艦6隻に対し、こちらは新鋭軽巡とはいえ、わずか2隻。明らかに不利だ。 またもや敵艦の艦上に閃光がきらめいた。今度は2発命中した。だが、今度も先の薄緑色の 光が混じっていた。 (まさか・・・・・・・・いや、この世界ではあり得ないことではない) 彼はある考えを思いついた。それと同時に頃合よし確信した彼は次の指令を下す。 「一斉撃ち方!」 しばらく調整のため、砲撃が止む。彼はその間、発砲を繰り返す敵艦を見つめていた。無い。 火災炎が無い。それに、着弾と同時に破片らしきものも飛び散るはずだが、その艦には目立った 損傷も無ければ火災を起こしたようにも見えない。 敵艦が照明弾を打ち上げる。光に照らされた艦影は、明らかに無傷だった。 (やっぱり・・・・バーマント軍は魔法というものを使っているな。だとすると、あの艦には 魔法使いが乗っているのか、こいつはかなりやばいぞ) 彼はそう思い立つと、背中がぞっとした。バーマント軍も、対応策として、防御強化のために 魔道師を乗せて、その放つ魔力で砲弾の威力を減殺しているのだろう。 (そんな事に頭を使っている暇があったら、さっさとその虐殺好きを直せ、馬鹿野朗) 彼は内心で敵艦を罵った。そしてモービルの12門の6インチ砲が一斉射撃を始めた。 ドドーン!!先の交互撃ち方とは比べものにならない衝撃が艦橋を揺さぶった。そして敵1番艦 の周囲に多数の水柱が吹き上がった。そしてその中に3つの閃光が走った。 後方のデンヴァーも一斉射撃に入ったのだろう。6インチ砲12門の一斉射撃を始めた。 形成は、米側に不利な状態にある。砲戦を行っているのは、バーマント軍の高速戦列艦6隻と、 米大型軽巡2隻、バーマント側は大型軽巡1隻に対し、3隻で砲撃を行っている。 弾着も、最初はお粗末なものであったが、今ではかなり精度を上げている。唯一、発射速度が 30秒に1発という遅さなのが救いである。これに対し、モービルとデンヴァーは20秒に1発 の速さで1分間に4斉射できる。 そして斉射開始から2分、既に敵1番艦には実に10発の6インチ砲弾が命中していた。まさに 連打である。だが、その好成績とは対照的に、敵1番艦は損傷した様子も無ければ火災炎を 上げる様子も無い。 「なんてこった!敵の防御は戦艦並みだぞ!」 クルーズ艦長は、敵の魔法防御の硬さに下を巻いた。距離は8マイルまで下がっていた。 「よし、5インチ砲射撃初め!!」 たまりかねたクルーズ艦長は、5インチ砲の射撃を許可した。艦橋前、後部、右舷の合計 4基の連装両用砲が敵艦に向けられた。そしてその第1弾を発射した直後、右舷側の海面に 3本の水柱が立ち上がった。 「夾叉されました!!」 見張り員の悲痛めいた声が艦橋に聞こえた。 「うろたえるな!!砲の発射速度ではこっちが勝っている!それにA部隊もまもなく来るはずだ。 このまま行けば負けんぞ!!」 彼の言葉を裏付けるかのように、 「CICより報告、A部隊わがB部隊後方10マイルに接近せり。」 「よし。騎兵隊がおいでなすったぞ。」 彼は額にかいた汗を拭った。5インチ砲弾も加わった砲撃は激烈だった。 敵1番艦の艦上には数秒ごとに5インチ砲弾が炸裂し、間断なく閃光が走っている。 そして9斉射目を放ったとき、敵1番艦の艦上に4発が命中した。そしてその閃光 のなかに何かが飛び散るのが見えた。破片だ。 「やったぞ!敵の魔法防御を打ち破ったぞ!!」 その光景に、艦橋内はわあっ!と歓声が上がった。続いて第10斉射目が放たれた。 新たに2発が命中し、敵1番艦の艦首からうっすらと火災煙らしきものが見えた。 「よし、その調子だ!一気に畳み掛けろ!!」 クルーズがそう叫んだとき、シャシャシャシャ!という砲弾特有のうなり声が聞こえた。 それも今度のばかりはかなり強かった。 「来る!」 そう確信したとき、ガーン!という衝撃に艦橋は揺さぶられた。ついに被弾したのだ。 「左舷1番両用砲損傷!40ミリ機銃座1基全壊!!」 被害報告が届けられた。今まで間断なく砲弾を送り続けていた5インチ砲塔が1基やら れた。 「両用砲の兵員はどうなった?」 「2名戦死、3人が負傷しました。」 その答えに彼は眉をひそめた。だが、まだまだ行ける。彼がそう思ったとき、新たな被弾が モービルを襲った。今度は3弾が命中した。1発はモービルの煙突の1本を叩き折った。 残りの2発は中央部で炸裂し、あたりをめちゃくちゃにした。 モービルも敵1番艦に負けじと撃ち返す。敵1番艦に6発が命中した。その時、後部に命中した 閃光が大きくなった。瞬間、猛烈な爆発が起こり、後部2基の砲塔が見えなくなった。 爆炎のなかには、細長いものが何本か吹き上がっていた。 「やった!砲塔を吹き飛ばしたぞ!」 彼は思わず拳を上げて笑みを浮かべた。しかし敵1番艦は相変わらず28ノットのスピードで 航行し、甲板上でいくつもの火災炎を上げながらも前部の砲塔でモービルに向けて撃ちまくっている。 最後の1門まで減っても戦いは絶対に止めない。そんな猛烈な闘志が、直に伝わってくるようだった。 さらに5弾がモービルを打ち据えた。このうち、3弾が後部にまとまって命中した。 そして恐るべき事態が起きた。 「第3砲塔損傷!旋回不能!」 「なんてこった!」 彼は思わず声を上げた。モービルの要とも言うべき6インチ砲が3基使い物にならなくなったのだ。 これで砲戦力の25%を失ったことになる。だが、まだ砲は9門ある。 お返しだ、と言わんばかりに9門の6インチ砲が斉射をし、砲弾を敵1番艦に叩き込んだ。 ズガーン!という衝撃がガスタークを襲った。ワームリング少将は足を踏ん張って耐えた。 既に旗艦ガスタークは魔法防御を破られてから、実に16発もの砲弾を浴びている。 それ以前に、多数の砲弾が艦上で炸裂したばかりに、魔道師の体力に限界が生じて、ついに 倒れてしまった。そもそも敵艦の砲弾の威力が強すぎたばかりに、魔道師の魔力切れを加速 させることとなった。 「諦めるな!見ろ、白星の悪魔の船も傷を負っている。このまま行けば敵艦を叩きのめす ことができるぞ!」 左舷を航行する、スマートで精悍な感じの軍艦が、3連装の頑丈そうな砲塔がガスタークを 向いている。 艦橋と思われる鉄片には、四角の網を思わせるものがある。おそらく装飾のためにつけて いるのだろう。 ガガーン!という衝撃がして、またもや揺さぶられた。その衝撃がやまぬうちに敵艦に対して 前部4門の14.3センチ砲が咆哮する。 砲弾は1発が艦橋の横の甲板に命中した。そして寮艦から放たれた砲弾のうち、6発が敵艦 に対して満遍なく叩きつけられた。 敵艦の火災が一層ひどくなった。特に中央部と、艦首のほうから黒煙が激しく噴出している。 なぜか敵艦は砲撃をしなくなった。 「どうしたんだ?30秒立っても発砲しないとは。」 彼は不思議に思ったとたんふざけるなとばかりに新たな発砲の閃光が走った。 「くそ、またあたるかも知れんな。」 ワームリング司令官はそう思った。だが、意外な事に敵艦の砲弾ははるか左舷海面に着弾し 空しく水柱を上げた。 続いて20秒後に斉射が放たれるが、今度は手前に落下した。先の驚異的な命中率とは えらい違いだ。 「なるほど・・・・・被弾のダメージが蓄積して正確な照準が出来なくなっているな。」 ワームリング司令官はそう確信した。モービルからの射撃は甘いものだった。3斉射目も 遥か手前に落下している。 「ハハハハハ!何が最強の異世界軍だ!いくら強い軍艦でも沈むものは沈むのだ!その事を 思い知るがいい!!」 新たにガスタークから砲弾が発射される。今度も1弾が敵艦の前部の砲塔を叩いた。敵艦 も負けじと打ち返す。 「もうやめろ。貴様はさっさと体を休めていろ。」 彼は突き放したような口調でモービルに向けてそう言い放つ。だが、次の瞬間、既に経験した 6インチ砲弾の衝撃が、再び艦体を叩いた。 瞬間、目の前が真っ赤に染まったと思うと、ダダーン!という轟音が鳴り響いた。猛烈な衝撃に ガスタークは打ち震えた。艦橋内の職員は全員が床を這わされた。 しばらくたって、ワームリング司令官が起き上がった。まず、目に入ったのが、既に沈黙した敵1番艦 であった。4基の砲塔は発砲炎を吹くことも無く。ただガスタークに指向されているだけだ。 機関部に損傷は無いのか、相変わらず高速で突っ走っているが、甲板のあちらこちらから火災が 発生していた。それの黒煙がもうもうとたなびき、モービルの無念を現しているかのようだ。 そしてモービルが”前方へ遠ざかりつつ”あった。 「ふん。思い知ったか。異世界軍め。」 そう思い、前部砲塔を見てみた。そして艦首が消えていた。彼は目を疑った。 「艦首が・・・・・消えた!?」 なんと、艦首がざっくりと切断されているではないか! ガスタークは艦首が切断され、今にも沈没寸前の状態だったのだ。そして、現に沈みつつ あった。彼は知らなかったが、モービルの放った砲弾は、ガスタークの第1砲塔をひき潰し、 艦内の弾火薬庫で炸裂、呼び弾薬が誘爆して、そのパワーが艦首をもぎ取ったのだ。 「俺の最新鋭艦が・・・・・自慢のフネが。」 艦長が放心状態でそう呟いている。その目には、涙が浮かんでいる。 「それよりも総員退去だ。このフネはもう助からない。」 ワームリング司令官は艦長にそう伝えた。艦長は頷くと、艦橋から飛び出していった。 と、突然前方からまばゆい光が発せられた。 その光は、バーマント公国軍の艦列の前方から発せられていた。 モービルとデンヴァーは善戦していた。まず、モービルが敵1番艦を、デンヴァーが2番艦 に多数の5インチ。6インチ砲弾を叩き込んで魔法防御を突き崩すと、敵艦はたちまち猛射 に捉えられ、鉄のぼろと化した。そして敵1番艦が弾薬庫誘爆で艦首を切断され、その場に 停止した。続いて2番艦が真ん中から真っ二つに割れて爆沈した。 デンヴァーとモービルは残された砲で敵3番艦を狙った。だが、この時モービルは6インチ砲 全てが使えなくなり、5インチ砲が3門使用できるのみで、デンヴァーは6インチ砲2門、 5インチ両用砲3基が叩き潰されていた。 特にモービルはレーダーが損傷して使用不能になると言う由々しき事態に陥っていた。 無傷の敵3番艦に猛射を与えているうちに。まずモービルが残りの5インチ砲を全て叩き潰 されてしまった。次いで速力が低下して落伍した。残るはデンヴァー1艦のみとなった。 既に驚異的な猛射で敵3番艦の魔法防御は崩されてており、既に5インチ砲2発、6インチ 砲6発が命中して砲塔1基に煙突1つをなぎ払ったが、すでにデンヴァー自体、満身創痍である。 「畜生、せっかくバーマント野朗を討ち取ったのに、ここでやられるのか・・・・・」 デンヴァー艦長、フェリル・リュート大佐はそう言った。その直後、ガガーン!という被弾音 が鳴り響いた。それも何かが壊れる音。 「第3砲塔損傷!使用不能!」 彼は青ざめた。そして絶望しかけたとき、急に影が敵の間に割って入ってきた艦があった。 それはルイス・ハンコックを初めとする駆逐艦部隊であった。 駆逐艦部隊は、まず2隻が敵の小型船戦列艦相手に激戦を繰り広げた。この戦闘で、マグフォード が大破したものの、増援の3隻の駆逐艦が加わってからは形成が逆転した。 新たにガトリング、ドーチが損傷したものの、4隻の小型戦列艦を撃沈した。そしてその足で 苦境に陥るB部隊に加勢したのである。 37ノットのスピードで、5門の5インチ両用砲を乱射しながら、距離4000で53センチ魚雷 を投下した。 次の瞬間、敵3番艦の横腹に3本の水柱が立ち上がった。3番艦は一瞬、左舷側に仰け反った後、 その後、猛烈に右舷側に傾斜し、あっという間に転覆した。 4番艦は4本の魚雷をまともにくらって、一瞬で轟沈してしまった。5、6番艦はそれぞれ 魚雷1本ずつを食らい、速力が大幅に低下してしまった。 そこへやっと到着した重巡洋艦サンフランシスコ、軽巡洋艦ブルックリンが砲撃を行った。 「フェリル、聞こえるか?」 サンフランシスコ艦長アルア・リットマン大佐の声が聞こえてきた。 「ああ、聞こえるよ。アルア、遅すぎだ。」 彼は苛立ちまぎれにそう返事した。 「遅れてすまなかった。これからは俺達に任せてくれ。」 「もっと早く来てくれりゃあ、こんな酷い目に会わずに済んだのに。まあいい。後で一杯おごれよ。」 「分かった。約束する。」 そう言うと、無線が切られる音がした。リュート艦長は、頑張れよと心の中で声援を送った。 午前4時10分、海戦は終わった。米側は、迎撃に当たった軽巡洋艦モービル、デンヴァー、 駆逐艦マグフォードが大破し、ガトリングが中破、ドーチが小破するという被害を受けた。 またA部隊も重巡サンフランシスコ、軽巡モービルが敵弾を受けて小破した。 一方、バーマント第2艦隊は参加艦艇全てが撃沈されるという事態になった。この海戦で、 バーマント軍の艦艇は、全般的に米軽巡劣ると言うことがハッキリとなった。 逆に米海軍も、バーマント新鋭艦が魔法を使って強靭な防御力を得ていることに衝撃を受けた。。 この海戦は、後にサイフェルバン沖海戦と呼ばれることとなる。
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526 名前:UNNAMED 360[sage] 投稿日:2016/08/01(月) 01 51 20.40 ID 0Sxgdj3U 第83話 魔光と突然変異 異世界大陸に進出した日本が、大陸の拠点としている城塞都市ゴルグ、機械化が進み夜も眠らぬ街となりつつあるが、それを支える物は魔石を利用した発電施設であった。 「だぁーーーっ、魔石式発電機にまた、蔦が絡みついてやがる!!」 「初期型の奴は特に酷いが、最新型の奴には全く蔦が絡みついていないな・・・一体何が違うんだ?」 「さぁな、でも現地のリクビト連中は、初期型の発電機の近くが心地よいとか言っているから、周辺に何かしらの影響を与えているんだろう。」 「ふむ・・・・そう言えば、初期型の魔石式発電機は、外部に青白い魔光パルスが隙間から見えているから、これが原因なのかもな。」 「密閉度が高い新型の奴は、魔光が漏れていないから、周りの植物に影響を与えていないのか、じゃぁ、旧式の奴も覆って魔光を押さえておくか?」 「やめとけ、やめとけ、放熱の為に隙間開けているんだから、素人が下手に弄ると故障してしまうぞ。」 「ちぇっ・・・まぁ、そろそろ試用期間も終わりに近づいているし、少しずつ新型の発電機に移って行くから面倒な手入れからも解放されるのも時間の問題だな。」 日本の有志の企業が、開発した魔石式発電機によって広範囲に電力を供給しているが、魔石と言う物質はまだ未知の部分が多く、同時期にゴルグに従来の火力発電も建設されており、魔石式発電に異常が生じた際のバックアップを兼ねている。 魔石の性質が解析されるにつれ、バージョンアップが進んでおり、ゴルグのある一角は魔石式発電機の実験場か博物館の様な光景が広がっている。 そして、初期型の試用期間が終了する直前、事件が発生した。 初期型の魔石式発電機から眩い燐光が漏れ始め、盛大に部品をまき散らして爆発を起こしたのである。 幸い、その場に人は居なかったので、被害は巻き込まれた他の発電機と、発電機を覆うフェンスのみで、人身事故には至らなかったが、青ざめた企業は即座に調査団を派遣した。 「あーあー・・・こりゃ酷いな・・・。」 「発電機がまっ黒焦げだぜ、一瞬だけ広範囲を電気が荒れ狂ってリヒテンベルク図形が出来あがっているよ。」 「それにしたってこれは・・・蔦が絡んでいたのか?変な消し炭が発電機にへばりついてやがる・・・。」 「もしかして、これが故障の原因?メンテナンスの際に草刈りはしていたと聞いたが、これは一体どういう事だ?」 ボコボコ・・・・ッ・・メキメキ・・・。 「ん?なんだこの振動は?」 「っ!!何だ!?発電機がっ!!」 突如、黒焦げになった発電機が浮き上がったと思ったら地中から触手が伸び始め、発電機を握りつぶす様に蔦が外装を破壊し、内部の高純度魔石に蔦が侵入した。 「うわあああぁぁっ!?なんじゃこりゃー!!」 「化け物!!?ひぃっ!?」 発電機内部の魔石を取り込んだ瞬間、植物は、内部の管が青白く光り、脈動した後に他の発電機に触手を伸ばして次々と魔石を取り込んで行く。 「ま・・不味いぞ!?このままだと発電機が全てやられる!何とかしないと!」 「警察・・・はまだ居ないんだった・・・・・・自衛隊を呼ぶんだ、早く!!」 数名の調査団に派遣されていた職員が触手に弾き飛ばされ、怪我を負うが、人間には興味が無い様で、魔力を帯びた物質を取り込もうと周辺を探る様に触手がうねっている。 自衛隊が駆けつけた頃には、電柱程のサイズまで急成長しており、その中心部にはかつて、魔石式発電機の物だった魔石がコアとして鎮座していた。 「うわぁ・・・パニック映画に出て来そう・・・。」 「言っている場合か、あいつを何とかするんだよ。」 「無傷の発電機も近くにあるから、火炎放射器は使えないし・・・困ったな」 「取りあえず、あの狙ってくださいと言わんばかりに発光するアレを撃ち抜いてみるか、良く狙えよ。」 ロクヨンで発光するコアに向けて狙いを定め発砲すると、何かが砕け散る様な音共に青白い粒子が舞い上がり、触手の集合体は、一瞬だけ痙攣すると見る見る内に萎れて行き、遂には完全に枯れてしまった。 その後、直ぐに触手を振り回していた謎の植物の残骸は自衛隊によって回収され、その正体を突き止めるため、生物研究所に持ち運ばれた。 「・・・で、こいつは結局何だったんだ?」 「この地で広範囲に生息している蔦植物の変異体でしょうね、魔光パルスを長期間浴び続けた事によって突然変異を引き起こしたのでしょう。」 「まじかよ、昔怪獣映画でこういう奴見かけたぞ?放射能で巨大化したバラみたいなお化け植物。」 「流石にそれ程たちの悪いものじゃありませんよ、そもそも、急激な変化によって細胞組織がアンバランスになっており、枯れるのも時間の問題でした。」 「枯れたのはコアを直接破壊されたのが原因じゃなかったと?」 「それもありますが、魔石と絡みついてコアと化した細胞組織は、悪性腫瘍の様な形に変異しており、強力過ぎる魔光パルスに耐えきれず半ば自壊していました。」 「確かに自然界には存在しない濃度の魔石だが、まさか発がんするとはな・・・人間には影響はないんだよな?」 「我々含む地球の生物は、元々魔石を利用しない生物ですからね、精密検査を重ねましたが、ほぼ無害と見て間違いないでしょう。」 「現地人達への影響は?」 「・・・・非人道的な人体実験は禁止されております、それが例え地球人じゃなくても・・・です。」 「まぁ、そうだよなぁ・・・。」 眼鏡を指で押して、位置を調整すると、鞄の中からファイルを取り出して、テーブルの上に置く。 「しかし、同じような事故で魔光が周辺に漏れた事があったのですが、1名、強烈な魔光パルスを浴びて意識不明になったリクビトがおります。」 「何だって!?そいつはどうなったんだ?」 「その人物は、元々とある国から派遣されたスパイで、重要施設の破壊活動を行おうとしていたのです。」 「・・・・・・・・。」 「そして、今回破壊されたタイプと同系統の発電機・・・それから魔力を感じたのでしょう、魔石を奪取しようと破壊した瞬間、魔光パルスを浴びて神経を焼かれた様です。」 「自業自得とは言え、何ともエグイ話だな・・・。」 今度は別のファイルをテーブルの上に追加で起き、資料を指さす。 「そもそも、アルクス人は魔光パルスで、やり取りすることが出来、神経を惑わしたり、細胞に調整した魔力を流すことで細胞分裂を促進し傷を塞いだり、まさに魔法の様な現象を引き起こすことが出来ます。」 「現地人も魔法って言っているしな、特に精神操作魔法は、聞く限りではハッキング合戦の様だ。」 「では、その魔光パルスでやり取りするアルクス人に、強力かつ無秩序なパルスを浴びせたとします・・・どうなるでしょうか?」 「あぁ・・・焼き切れたって・・・。」 「そうです、アルクス人が生理的に必要不可欠な魔光も強すぎる物では毒となります。」 「おっかないな・・・魔石が人体に悪影響のある物質じゃなくて良かったぜ。」 「噂では防衛研究所で、対異世界人スタングレネードの開発が進められているとか・・・魔石を利用した兵器の開発は、表向きにはされていない事になっているのですけどね。」 「なんつーか、聞いているだけで碌な事になりそうにないな・・。」 「恐らくアルクス人・・・いえ、この星の原生生物すべてに強烈な影響を与えるでしょう。」 話を聞いた研究員の表情が強張る。 「あぁ、あくまで噂の域を出ませんからね、でも、精密魔石回路の大爆発現象の確認実験の件もありますから、魔石の兵器利用は時間の問題と見て良いでしょう。」 「危険物質がごろごろ転がっていて大丈夫なのかね、魔石自体は珍しくもなんともないんだろう?」 「昔ほどは見かけなくなったみたいですけどね、でも地下の埋蔵量は大したものですよ、むしろ地表に出ている物は、全体のほんの極僅かな方ですし。」 「突然変異を引き起こしたり、爆発したり放電したり、全く持って訳わからん物質だな、魔素と言うのは。」 「そうそう、訳わからんからこそ研究されている訳ですよ、この物質を知る事によってこの新しい世界の法則が理解できると言う事です。」 「まぁ・・・これ程の資源、利用しない手はないがな・・・。」 「さぁ、この変異体の研究を続けましょう、何かしらの対処法が見つかるはずですし・・・。」 その後、各メーカーは、魔石を動力に組み込んだ製品は、魔石が外部に露出しない様に密閉度に力を入れて開発するようになり、自然環境下に高純度魔石が露出される事は少なくなった。 しかし、今回の事故でまき散らされた大量の魔石粒子が、周辺に影響を与えるのはまた別の話であった。 ハリツキヅタ変異体 魔素の集まる魔石式発電所の敷地内で発生した植物の変異体。 元々は枯れた樹木に絡みつき、太陽光線を代わりに吸収する寄生植物の一種であったが、魔光パルスを浴び続ける事により魔光で光合成する植物に変異した。 そして、魔光の発生源である魔石を取り込む事により無秩序な変異が始まり崩壊・暴走状態になった。 強烈な魔素が全身を廻っている所に魔石を砕かれ、魔力を失いリバウンドに耐えきれずに崩れ落ちた。 今回は此処まで・・・高濃度な魔力って有害なイメージがありませんか? コジマは・・・不味い・・・。 魔光パルスを発していない未反応魔石は、高純度でもアルクス人にはさほど影響はないのですが、一度反応を起こして魔光を放ち始めた物は有害です。 ある程度、魔光を放った後は安定期間に移るので、アルクス人が高純度魔石に触れるとしたらそのタイミングになります。 過去に登場した生物 異世界人はある魔物を雄雌関係だと思っているけど、実は唯の近縁種で、もう片方は過去話に登場した超大型生物の幼体だったと言う話は書く予定していますね。 ただ、結構後回しになりそう、色々書きたいものはあるのですけど・・・。 飛び散った魔石粒子 騒動の後に起こったのは一体どういう事か、それほど遠くない内に書きたいと思います。 昔書いた魔物の図鑑みたいな物は、色々と生かしたいですねー、一発ネタの生物も結構な数になると思いますけど。 ハルクのような人体変異 ハルクになったケースだと、1000年前に大陸を荒らしまわった人食い族がそれに相当しますね。 現在は絶滅されたとされ、国通しで小競り合いをしながらも地道に復興と発展をしているみたいです。大陸の国々は 地下生物 地上の生物よりもダンジョンの生物の方が強そうなイメージがありますよね。 思うよりも魔鉱石の含有する場所は多く、強力な魔光パルスの影響で現地人が近づけない洞窟とかも存在します。 ちなみに、日本と入れ違いで地球に転移したマントルは、スーパーボルケーノをぶちまけて青白く発光する魔鉱石の溶岩を垂れ流しております。 日暮熟睡男の部屋 日暮熟睡男・・・うーん、よくわからないので検索したら、こち亀の登場人物でしたか。 部屋がどうなっているのか分かりませんが、謎生物が発生するんでしょうかね? スライム 微生物もちゃっかり魔力の影響で変質していますが、それはこの星で元々良く起きる現象なので特に問題ないと思います。 次々と生物が進化し続ける星、惑星アルクス、この世界でイレギュラーな存在である日本はどのような影響を齎すのか・・・ご期待ください。 高濃度エネルギーに晒されて怪物爆誕! 何かの間違いで、あらゆる耐性が高くて自衛隊の攻撃が殆ど通用しない怪物に成長していたら不味かったかもですね。 でも、元となる生物が強くなければ、魔石の魔力に耐えられずに崩壊しちゃうかもしれませんね。 膨大なエネルギーを浴びて進化したり狂暴化したりするのは、この手の作品のお約束だと思っていますww もしかしたら、現地の人や日本人が知らないだけで、異世界にとんでもない怪物が息をひそめているかもしれませんね。 コジマ粒子は、凄まじい環境汚染を引き起こして、街が砂漠に沈んでいましたねぇ・・・。 エースコンバットのイーオン粒子は環境浄化作用があるのに、AC同士で、どうしてここまで差がついたのか。(後者はACEと言う呼び方もあるけどねw
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ニポラ・ロシュミックが司令官から呼び出しを受けたのは新品のドシュダムの慣らし運転を済ませた直後だった。 ニポラが所属する第653飛行戦隊は12月9日から断続的に続いた首都防空戦で搭乗員の半数と機材の3分の2を失う損害を出した後、人員と飛行挺の補充を受けて再び最前線拠点に派遣されていた。 ちなみにドシュダムの配備数は定数の八割強、補充されたパイロットの大半は養成所を出たばかりのヒヨコである。 実際あらゆる物資の補給が滞っているなか、いくら生産効率を重視した簡易飛行挺とはいえドシュダムだけはなんとか損失に追いつくペースで補充の機体が―しかも改良型が―供給され続けているというのはちょっとした奇跡である。 「どうですか調子は?」 「悪くないわね」 寄ってきた機付き整備員に手渡された書類に書き込みをしながら答えるニポラ。 彼女がテストしていたのは補充として届いたドシュダムの中でも最新モデルのタイプ31で、この型は性能向上よりも生産工程の省力化に主眼が置かれている。 言うなれば“大概な安物”から“究極の安物”への進化。 あえて言おう、シン・ドシュダムであると。 具体的に説明すると、従来のドシュダムは金属フレーム―金網で編んだネズミ獲りのカゴを連想していただきたい―に合板製の外殻を貼り付けるという方法で製造されていた。 この方式なら機体だけなら町の家具屋レベルの設備で充分製造出来るワケだが、タイプ31では機体の外板に更に安価で加工の容易な段ボールに似た厚紙を採用している。 紙といっても魔法で強化されているので耐熱・耐過重性能において合板に比べさほど劣ることはない。 そのうえ構造材の変更によって機体重量が10%ほど軽減されているので機動性もいくらか向上している。 引き替えに曳光弾で簡単に火が着くという弱点が追加されてしまったが。 「残りの機体の試運転をお願いね」 「了解しました」 「了解しました」 ニポラは新しく配属されたちょっと―というかかなり―特殊な生い立ちをした二人の部下に、滑走路に並んだ最新式“紙飛行機”の試験飛行を代行するよう言いつける。 どちらも15~6歳にしか見えない初々しさと枯れた雰囲気が奇妙に同居した二人の少女飛行兵のうち、茶髪のショートカットで変なヌイグルミを集めていそうなのが「55号」、灰色の髪をセミロングにしたハンバーグが好きそうなのが「69号」という。 二人とも元は捨て子であり、物心ついた時には軍の特務兵養成機関に居た。 そして飛行挺部隊に出向を命じられるまでひたすら殺しの訓練と上官の“夜の接待”をやらされていたという。 新しい部下と打ち解けようと身の上話を振った際にそんなエピソードを聞かされたニポラはかなり真剣に(もうやだこの国)と思ったものだった。 「ニポラ・ロシュミック少尉、出頭しました」 「ご苦労さま、ちょっと待ってて」 第653戦隊司令フラチナ・カルポリポフ中佐は机の上を占拠した書類の山陰から顔を覗かせ、トレードマークの瓶底メガネを光らせながら手近な椅子を指さした。 まだ二十代前半でかなりの美人といっていいフラチナは、積み重なった心労と睡眠不足の相乗効果で奇妙な色気を発散している。 もとはケルフェラクのエースパイロットだったフラチナは被弾した愛機から脱出する際に頭部を強打し、後遺症として空間認識力に深刻な障害が残ってしまった。 今は感覚補正の魔法が掛けられたメガネのお陰で日常生活には支障ないが、それでもちょっと気を抜くと何も無いところで転んでしまう。 そんな訳で再編された653戦隊に新指揮官として二週間前に着任したばかりのフラチナとニポラ以下古参搭乗員の関係は、幸いなことにおおむね良好である。 「よっこいせっと」 書類との戦いに一区切りを付けたフラチナは年寄り臭い動きで机から離れると部屋の中央に置かれたテーブルに地図を広げ、ニポラを呼び寄せた。 「新しい任務があるんだけど」 「今度はスモウプみたいな事はないでしょうね?」 そう言い返されてフラチナは、“チーズと思って口に入れたら黄色いチョークだった”と言わんばかりの表情になった。 4日前、ニポラ率いる小隊はカレアント軍が侵攻したスモウプの街を爆撃した。 事前情報では街には敵軍しかいないはずだったが、実は味方の第108師団の一部が後衛として街に残っていただけでなく、情報の混乱からドシュダム隊に攻撃目標として指示されたのは味方の立て籠もっていた工場だった。 そして昨日、街を脱出した生き残りが私用で基地を出たニポラを襲い、あわやというところで駆けつけた55号と69号が初代プリティでキュアキュアな二人組のごとき大立ち回りを演じて暴徒と化した敗残兵の一団を撃退したのである。 「ホント二人が来なかったら埋められて殺されて犯されてましたよ」 「正直スマンカッタ」 頭を下げるフラチナ。 「まあいいです、済んだことですから」 負けが込んで来てからのシホールアンル軍は万事につけ余裕が無い。 朝出された命令と正反対の命令が夕方に下されるなんてことは当たり前。 司令部の理不尽な命令に理路整然と反対意見を述べた前線指揮官が抗命罪に問われて裁判抜きで処刑!なんてケースも少なくないことを知っているだけに、ニポラも中間管理職の重圧に身が細る思いをしている―実際顔は良いが顔色はあんまりよくない―飛行隊司令をそれ以上追求する気にはならなかった。 「それで任務というのは?」 ニポラが話題を変えたことで露骨にホッとした顔になるフラチナ。 「目標はミウリシジの鉄橋よ、ここを取られると北部戦線の側面に大穴が空いてしまうの」 両軍の配置が書き込まれた地図で見てみると、なるほど敵にとっては格好の侵入路である。 「攻撃目標の鉄橋ですがドシュダム用の小型爆弾で破壊できますかね?」 「まず無理ね、そこで今回は海軍の対艦用爆裂光弾を使うわ」 ニポラは露骨にイヤそうな顔をした。 ドシュダムはそれなりの出力を持つ魔道機関と小型軽量な機体の組み合わせによって比較的良好な運動性能と加速性能を持ち、アメリカ製の戦闘機と互格とまではいかないがある程度は戦える実力を有している。 が、所詮は間に合わせの簡易飛行挺であり、対艦爆裂光弾のような大型兵器を搭載して飛び上がった場合、妊娠した雌牛のように鈍重になってしまう。 「わかってるわ、本来ならケルフェラクかワイバーンがやる仕事だけどケルフェラクの123飛行隊もワイバーンの99空中騎士隊も連日の防空戦闘で大損害を出しているうえに新しい部隊を手配する余裕は無いのよ」 いかにも済まなさそうにフラチナが言う。 「やるしかないワケですか」 「そゆこと」 司令官はハアッと重い息をつくと自分に気合いを入れるかのようにパンと膝を叩いて立ち上がった。 「今度の作戦では私も飛ぶわよ!」 「でも司令は……」 「大丈夫、ケルフェラクに比べればドシュダムは乳母車みたいなものよ」 ちなみに戦後ドシュダムをテストした米軍パイロットは「サルでも飛ばせる」と証言している。 「書類仕事はもうウンザリ!大空が私を呼んでいる♪」 フラチナは両手を広げてクルリと一回転し、次の瞬間、盛大にコケた。 その日の正午過ぎ、第653戦闘飛行隊から選抜された6機のドシュダムが前線飛行場を飛び立った。 対艦爆裂光弾が6機分しか用意できなかったのだ。 最近のシホールアンル軍は何事もこんな具合である。 「遅すぎる、そして少なすぎる」そう恨み言を吐いて死んでいく兵士が一日に何人いるかは神のみぞ知るといったところか。 よたよたと離陸する飛行挺の主翼には一斗缶を連結したような爆裂光弾の発射筒が吊り下げられている。 今回は鉄橋が標的なので生命探知魔法の術式は解除してあり、使い方は無誘導のロケット弾と変わらない。 6機の特別攻撃隊は第一小隊の3機をフラチナが、第二小隊の3機をニポラが指揮し、小隊長機を先頭にした二つの逆V字隊形を上下に重ねた形で進撃する。 ニポラの小隊で一緒に飛ぶのは55号と69号である。 ドシュダムでの飛行時間は55号が7時間、69号が10時間しかないが、適正を認められて暗殺部隊から転属してきただけあって、二人とも無難にドシュダムを乗りこなしている。 フラチナが指揮する第一小隊には公認撃墜3機と4機のベテランがいて、撃墜数は二人を足した数より多いものの、イマイチ飛びっぷりが心配な戦隊司令に寄り添っている。 樽めいた太短い胴体にほとんど上反角の無い分厚い主翼を組み合わせた飛行挺が特徴的なエンジン音を唸らせて飛ぶ様は、航空機の編隊というよりは羽虫の群れを連想させる。 幸い―と言っていいのかどうか―敵の航空隊は東部で行われているバルランド軍の攻勢にまとめて投入されているらしく、敵戦闘機との遭遇はない。 特別攻撃隊がミウリシジの鉄橋に到着し、攻撃の前に上空を旋回して周囲の確認をしていると、普段はぽややんとしているくせにここぞという時にはニュータイプ並に勘が働く55号が線路上を南下してくる列車を見つけた。 高度を下げて列車の上空をフライパスすると、その列車は前線から負傷兵を後送してきたものらしく、無蓋貨車に寿司詰めにされた包帯姿―赤い染みが広がっているもの多数―の兵士たちが盛んに手を振っている。 特別攻撃隊のドシュダムを自分たちの上空援護に来たものだと思っているのだろう。 『司令――』 『分かっている、列車が通過するまで攻撃はしない』 だが現実は非情である。 『敵です!』 69号が反対の方角から道路を北上してくる戦闘車両の一群を見つけた。 「ドチクショーッ!」 品の無い罵声が口を突いて出るのも致し方なし。 傷病兵で満杯の貨車を引いてノロノロと線路上を進む列車より、道路上をすっ飛ばす機械化部隊の方が鉄橋に先に到達することは確定的に明らか。 彼らは戦線に突破口を穿つため快速車両で編成されたカレアント軍の偵察/襲撃部隊であり、全員が某狂せいだー乗りに勝るとも劣らないスピード狂である。 『第一小隊、敵車列を攻撃!第二小隊は上空で待機!』 三機のドシュダムはV字編隊を解き、緩やかな角度で降下しながら道路を爆走する車列に襲いかかる。 フラチナのドシュダムが先頭を走るM18戦車駆逐車に狙いを定めて射撃開始。 タイプ31の装備する重魔道銃は実体弾換算で25ミリ級の威力がある。 対して高速だが軽装甲のM18は主砲防楯の厚さが1インチ(≒25.4ミリ)であり、その他の主要部は0.5インチしかない。 あわれM18はブリキ缶のごとく撃ち抜かれて爆発炎上! 攻撃を終えたフラチナ機が機首を引き起こすと同時に二番機が射撃開始、さらに三番機が後に続く。 第一撃でM18二輌とハーフトラック三台、機関銃と装甲板を追加した強襲用ジープ一台が炎に包まれた。 だがカレアント軍は諦めない、燃える車両を体当たりで道路から突き出してひたすら橋を目指す。 『列車は!?』 上空で旋回を続けるニポラが答える。 『いま鉄橋を渡り始めたところです!』 『くっ!』 フラチナは唇を噛んだ。 すでにカレアントの車列は川に沿った堤防上の直線道路に達している。 「あああもう!」 フラチナは堤防に向けて対艦爆裂光弾を発射した。 爆発によって路肩が崩れ、カレアントの戦車は急停車を余儀なくされる。 堤防の右側はかなり流れが急なカナリ川、左側もぬかるんだ湿地になっている。 道路を迂回して橋に向かうには1マイル近くバックして回り込むしかない。 そのとき一人の兵士がM6装甲車から飛び降りた。 堤防道路は川側が長さ6メートルに渡って崩落しているが完全に不通になったわけではなく、陸側にギリギリ車一台通れるだけの道幅が残されている。 徒歩の兵士に誘導され、旋回砲塔に37ミリ砲を装備した重装甲車はそろそろと今にも崩れそうな土手道を進んでいく。 『続けて攻撃!』 フラチナの命令を受け、第一小隊二番機が降下していく。 当然カレアント軍もやられっ放しではなく、車両に搭載された火器だけでなく、ライフルや拳銃まで動員して撃ちまくる。 激しい対空砲火が浴びせられるが、両翼にかさばる荷物を吊り下げたドシュダムの動きは鈍い。 二番機を仕留めたのは砲塔を失ったスチュアート戦車に不時着したP-39から取り外したオールズモビルのM4機関砲を載せた改造自走砲だった。 37ミリの榴弾が魔道エンジンを直撃し、パイロットが脱出する暇も無くドシュダムは爆発四散! 『三番機逝け!』 非情なる命令! だが兵士は黙って従うのみ。 三番機は撃ち落とされる前に対艦爆裂光弾を発射し、堤防道路は完全に不通となった。 『列車が渡り終えました、これより鉄橋を攻撃します』 ニポラ率いる第二小隊は横一線になって川下から接近し、それぞれ右端、中央、左端の橋桁を狙って対艦爆裂光弾を発射する。 発射された6発のうち2発が橋を直撃、残りも至近弾となって鉄橋は大きく揺らいだ。 だがそれだけだった。 『……ダメみたいですね』 『まあ最善は尽くしたわ、引きあげましょう』 軍用列車の通過に耐えられるよう特に頑丈に作られた鉄橋を完全に破壊するには、ドシュダム三機分の爆裂光弾では火力が足りなかったのだ。。 橋に到達したカレアント軍はまず軽装備の歩兵を渡らせて対岸に橋頭堡を築くとともに橋の修理と補強を迅速に行い、翌朝の日の出とともに最初の戦車がカナリ川を渡った。 飛行場に戻ったフラチナとニポラ、55号、69号はドシュダムから降りると同時に武装した兵士に取り囲まれた。 「貴様等を叛逆罪でタイホするのである」 ハゲでヒゲで脂ぎった中年太りの大佐が横柄な口調で宣言した。 「待ってください話を――」 一歩踏み出し小石一つ落ちていない滑走路でコケるフラチナ。 その背中をハゲヒゲ固太りが踏みつける。 「黙れ罪人」 それを見て飛び出そうとした55号と69号が鳩尾に銃床を叩き込まれて膝を折る 「司令部に連行してじっくりねっちょり尋問するのである」 どこか背徳的なポーズで緊縛された四人は囚人用の馬車に乗せられ、基地を後にした。 その後、特別攻撃隊が渡河を援護した列車に皇族の親戚筋に当たる某陸軍大将の跡取り息子が乗っていたことが判明し、あっちこっちで圧力の掛け合いやら裏取引やらがあって最終的に四人は放免されるのだが、監禁されている間ナニが行われていたのかはご想像にお任せする。
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705 名前:UNNAMED 360[sage] 投稿日:2014/11/25(火) 22 40 24.78 ID iXul2dJn 「ニッパニアからの特使だと?」 異世界の大陸のとある小国にて、数匹の鎧虫に乗った斑模様の兵士が接近中と言う情報を聞き、その国は色めき立ったが、 彼らの目的は、国交を正式に結ぶために訪れたと言う。 「異形の鎧虫と兵士の護衛が多数、そして、ニッパニアの外交官です・・。」 「ぐっ・・・対・ニッパニアの為の連合を結成しようとしている時に・・・。」 「未確認情報ですが、連合を組む予定の国々にもニッパニアの特使が訪れているみたいです。」 「・・・・成程な、ニッパニアは複数の国を敵に回すよりも、味方に引き込んでしまうほうが良いと判断したのだろう。」 「なんとも狡猾な種族です。」 「ふん、流石のニッパニアも危機感を抱いたか、しかし、此方に大きな利益が無ければ、突っぱねてやるわ」 城門が開くと、鎧虫が独特の唸り声を上げながら、街道の石畳の上を走り、街の住民は、驚いて建物の中に逃げ込んだり、 異形の鎧虫と兵士を興味深く観察していた。 「日本国ゴルグ行政代行官にして今回特使として派遣されました山崎由紀です」 「ほほう、ニッパニアには女性の外交官もおるのか、遠路はるばるご苦労だったな。」 「ヤマザキ殿、このお方が、この国を治める国王です。」 「うむ、このまま立ち話も何なので、城の会議室で続きを話そうか・・。」 特使と言うのだから、少なくとも凶行に及ぶ事は無いのだろうが、万が一に備えて、監視と牽制を兼ねて数名の兵士を部屋の片隅に立たせる。 「では、早速ですが、対等な立場での国交を結びたいと思います。」 「貴国と国交を結ぶ事は吝かではないが、大陸に訪れてすぐ、ゴルグガニアを武力で制圧し、その手中に収めたと聞くが・・・。」 「日本は、貴国と争うつもりはありません、それに、その指摘に関しては日本に非は有りません。」 「ほほう?」 「ゴルグと国交を結ぶために、特使を派遣したものの、騙し討ちに遭い、使節団は全滅、拷問を受け、我々に見せつける様に城壁へ遺体を張り付けたのです。」 その話の内容に、国王は少なからず驚いた。特使を騙し討ちし、死体を晒すなど、まともな国ならばやらない、ましてや碌に戦力も分からぬ未知の国相手で・・・だ。 「ふむ、しかし、その様な情報は聞いていないが・・・。」 「特使の遺体が晒されていたのは、我々がゴルグを陥落させるまでの間の短期間でしたからね、現在は、本国の墓地に納骨されております。」 「さぞ無念であっただろうよ、ニッパニアがゴルグガニアを攻めるのも理解できる、その話が本当ならばな。」 「余りこういう会談の場で見せるべきものではないのですが・・・・仕方ありませんね・・・。」 山崎特使が懐に手を伸ばし、部屋の隅に立っていた兵士が、剣に手をさり気なく添えるが、彼女はそれに意にもせず、白い石板の様な物を取り出した。 「・・・・・これを・・・見てください。」 山崎特使が、魔道具と思わしき石板を操作すると、少し目を背ける様にしつつ石板を差し出す。 「こ・・・これはっ!!!?」 石板に映し出されたのは、焼け焦げ、血にまみれた死体が城壁に吊るされている絵だった、その惨たらしさ去ることながら、 その絵はまるで、その場面をそのまま切り取ったかの様に精巧に描かれていた。 「焼け焦げた死体に、損傷が激しいとはいえニッパニアの服と一目でわかる衣装、そして、これは間違いなくゴルグガニアの城塞。」 「写し絵、もしくは、写真と言う物です。その風景の一部を切り取る道具と言いましょうか・・・。」 「シャシン・・・・ニッパニアには、この様な魔道具があると言うのか・・・しかし、この光景は・・・・。」 周りの兵士も、遠目から確認できる石板の絵に驚きつつも、ゴルグガニアの行った蛮行に怒りを感じ始めていた。 「貴国の言い分は理解した、だが、その上で貴国は我が方に何を望まれるか?」 「我々が求めるものは以下の通りです。」 :両国は互いに独立した国家であることを認める。 :両国は互いの国境を峡谷に流れる大河とする。 :両国は交易協定を結ぶ。 :両国は互いの安全を保障する相互不可侵条約を結ぶ。 :両国は互いの国に大使、並びに領事を派遣し自国民の権利を保障する。 :両国は正式に国交を結ぶにあたっての法整備をする。 「ふむ、妥当な内容だな・・・。」 「日本国は必要とあれば、あなた方の要請次第で支援や援助などを行う用意も御座います。」 「それは有り難いな、それならば我らも、力になれる事があれば手を貸そうぞ?」 「有難う御座います。」 ふと、何か思い出したかのように手を叩くと山崎特使は、視線を後ろの扉に移す。 「あぁそうでした、我が国から贈呈品が御座います。」 暫くして、広間に次々と鎧虫の荷台から降ろされた色とりどりの鮮やかな布や、工芸品などが並ぶ 「これは・・・何と見事な・・・。」 「それは、ガラス細工と言います。この大陸では珍しい物かと・・・・」 「ニッパニアにはさぞ優秀な職人が居るのだろうな?」 「えぇ、それも沢山です。」 「素晴らしいな、この様な国と国交を結べるのならば、我が国も現在よりも発展が望めるだろう。」 「ただ交易をするだけでなく、日本の技術を広く伝えたいと思います。」 「ニッパニアの技術とな?だが、その様な物を外部に漏らして良いのだろうか?」 「農業技術から、採掘技術など、他にも様々な技術を提供いたしましょう・・・その代り・・・」 会談が終わり、日本の特使が帰ると、国王は頭を抱えて椅子にもたれかかるのであった・・・。 「まさか、自国だけでは食糧を賄いきれないとは・・・・あれだけ強力な国が・・・。」 「意外でしたね・・。」 「ニッパニアの農業技術の内容が本当ならば、同じ面積で今の数倍は収穫量が見込めるが、その殆どを買い叩かれては・・。」 「最初に抱いた印象とは、また別な意味で狡猾な種族の様ですね。」 「ぬぅ・・・ヤマザキ特使が言うには、収穫量によってニッパニア側も輸入量を減らすと言っていたが、総合的にみると国民に食わせる量が以前よりも減ってしまうぞ。」 「ニッパニアから沢山の外貨が手に入るのは魅力的なのですがね・・・。」 「連合を組む予定だった国々も似たような事を言われているのだろうと思うと、何とも言えない気持ちになる・・・。」 「ニッパニアと相互不可侵条約を結べただけ良かったと思いますがね、あの国との戦に備えなくて良くなるのですから。」 「そうだな・・・・だが、ヤマザキ殿が最後に言っていた言葉が気になるな・・・。」 「他の国の代表者や特使をタネガシマと言う孤島へ招待する・・・ですか・・・。」 あとがき その場のノリと勢いと思いつきで、書いたので整合性は考えておりませんです。(白目 細かい事は良いのです。 手元にある参考資料・・・と言う名のSSサイトリンクを眺めていると目がチカチカしてきますね; しかし、どれも似たような流れになってしまうので、ぱく・・・オマージュになってしまうのは、どうした物か Wikiやgoolge先生の力を借りて修正しても、何処かしらのSSと文章が被ってしまうと言う・・・。 あれですかね・・・カバを見た事が無い人がカバの絵を描けない様な物として見てよいのでしょうかOTL
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東大陸編目次 第11話 第11話あとがきと補足 第12話 第12話あとがきと補足 第13話 第13話あとがきと補足 第14話 第14話あとがきと補足 第15話 第15話あとがきと補足 短編『戦竜の時代は終わったのだ。』 短編『戦竜の時代は終わったのだ。』あとがきと補足 第16話 第16話あとがきと補足 第17話 第17話あとがきと補足 第18話 第18話あとがきと補足 第19話 第19話あとがきと補足 短編『再び元の世界に戻る、その日まで。 』 短編『再び元の世界に戻る、その日まで。 』あとがきと補足 第20話 第20話あとがきと補足 外伝的掌編『『賢者の石』を捜索せよ。』 外伝的掌編『『賢者の石』を捜索せよ。』あとがきと補足 短編『機械の館』 短編『機械の館』あとがきと補足 小ネタ(本編関連)『ディギル海賊団』 小ネタ(本編関連)『ディギル海賊団』あとがきと補足 第21話 第21話あとがきと補足 小ネタ『またも勝ったり、無敵皇軍!』 小ネタ『またも勝ったり、無敵皇軍!』あとがきと補足 第22話 第22話あとがきと補足 第23話 第23話あとがきと補足 短編『神賜島の開発計画』 短編『神賜島の開発計画』あとがきと補足 小ネタ『性能要求資料』 小ネタ『性能要求資料』あとがきと補足 第24話 第24話あとがきと補足 短編『御成婚』 短編『御成婚』あとがきと補足 短編『対戦車銃部隊』 短編『自動車に乗り遅れるな!』 短編『自動車に乗り遅れるな!』あとがきと補足 外伝的掌編『サンパチ銃』 外伝的掌編『サンパチ銃』あとがきと補足 短編『捕鯨船と海竜カレー』 短編『捕鯨船と海竜カレー』あとがきと補足 本編と外伝の中間くらいの掌編『皇国軍の基地祭』 外伝的掌編『最高のレシプロ戦闘機』 外伝的掌編『最高のレシプロ戦闘機』あとがきと補足 外伝的掌編『神賜島物語 ~空閑穂積の場合~』 外伝的掌編『神賜島物語 ~空閑穂積の場合~』あとがきと補足 外伝的掌編『皇国に雇われる現地人労働者』 外伝的掌編『皇国に雇われる現地人労働者』あとがきと補足 外伝的掌編『リアン様の自動車教習-蒸気侯爵の本気-』 外伝的掌編『リアン様の自動車教習-蒸気侯爵の本気-』あとがきと補足 第25話 第25話あとがきと補足 外伝的掌編『皇国人との初遭遇』 外伝的掌編『皇国人との初遭遇』あとがきと補足 第26話 第26話あとがきと補足 第27話 第27話あとがきと補足 第28話 第28話あとがきと補足 単発外伝『とある新聞の社説より』 単発外伝『とある新聞の社説より』あとがきと補足 第30話 第30話あとがきと補足 第31話 第31話あとがきと補足 外伝短編『F世界のミシュランガイド(?)』 外伝短編『F世界のミシュランガイド(?)』あとがきと補足 第32話 第32話あとがきと補足 第33話 第33話あとがきと補足 第34話 第34話あとがきと補足 外伝的掌編『シャーナ。母になる』 外伝的掌編『シャーナ。母になる』あとがきと補足 第35話 第35話あとがきと補足 掌編『祭り酒屋』 掌編『祭り酒屋』あとがきと補足 第36話 第36話あとがきと補足 超掌編『軍人と一角獣』 超掌編『軍人と一角獣』あとがきと補足 掌編『皇国製帆船、異世界デビュー』 掌編『皇国製帆船、異世界デビュー』あとがきと補足 第37話 第37話あとがきと補足 掌編「人生、苦あれば楽もある、か」 掌編「人生、苦あれば楽もある、か」あとがきと補足 短編『突撃一番』 短編『突撃一番』あとがきと補足 第38話 第38話あとがきと補足 第39話 第39話あとがきと補足 掌編『幽霊会員的小国』 掌編『幽霊会員的小国』あとがきと補足 第40話 第40話あとがきと補足 掌編『傭兵ギルドからの催促が凄い。』 掌編『傭兵ギルドからの催促が凄い。』あとがきと補足 第41話 第41話あとがきと補足 第42話 第42話あとがきと補足 掌編『外交官の真似事も増えたなぁ。』 掌編『外交官の真似事も増えたなぁ。』あとがきと補足 第43話 第43話あとがきと補足 第44話 第44話あとがきと補足 第45話 第45話あとがきと補足 掌編『大事件。』 掌編『大事件。』あとがきと補足 掌編『柳の下に泥鰌は二匹いない。』 掌編『柳の下に泥鰌は二匹いない。』あとがきと補足 第46話 第46話あとがきと補足 第47話 第47話あとがきと補足 第48話 第48話あとがきと補足 掌編『シャーナさまと蓄音機』 掌編『シャーナさまと蓄音機』あとがきと補足 外伝『イルフェス王女義勇連隊の裏側』 外伝『イルフェス王女義勇連隊の裏側』あとがきと補足 第49話 第49話あとがきと補足 第50話 第50話あとがきと補足 第51話 第51話あとがきと補足 東大陸編の補足へ
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第2部 第8話-2 特別機動船1号 第1河川舟艇隊突撃戦隊 マワーレド川 2013年 2月15日 02時55分 第1河川舟艇隊臨編突撃戦隊のYF2137交通船と4隻の特別機動船は、あっさりと〈帝國〉軍南正面哨戒線の突破に成功していた。 〈帝國〉軍の不手際だけを責めるのは適切では無いだろう。城からの脱出に備えて配置されていた彼らは、背後から有り得ない速度で突撃を受けたのだ。 暗闇を閃光が走り、雷鳴のような響きが轟くと、川縁に配置されていた兵たちが穴だらけにされて吹き飛んだ。それは真っ黒な影にしか見えない謎の軍船が通り過ぎると共に止んだが、短時間のうちに受けた損害は甚大だった。 生き残った指揮官が部隊の混乱を収めるまでには、かなりの時間がかかることは間違いなかった。敵が嵐のように過ぎ去った後には、呻き声と悲鳴に満ちた陣地と、蹴散らされ沈みつつある味方の軍船が残されていた。 突撃戦隊は特別機動船2隻を先行させた。2隻は単縦陣を組み20ノットで北上し、その後方に旗艦と残り2隻が続いている。 合成風力が激しく顔面を叩く。唸りを上げるエンジン音と激しく上下するFRP製の胴体が水面を打つ音が周囲を満たしている。 「こらぁ速力は落とすな、おそれるな! 行けェ!」 SB1号艇指揮の是俣茂(これまた・しげる)三等海尉は、操縦手のヘルメットをバシバシと平手で叩いた。甲高い声が楽しげに響く。 是俣三尉は福井県福井市出身の36歳。一般隊員として入隊し、艦艇乗組みの射撃員として勤めたのち、部内試験を経て幹部に任官した。 中肉中背、たれ目がちの顔は平凡だが、ひげの剃り跡が青々としている。これといって目立つところもなく、何処にでもいる自衛官の一人だった。 異世界アラム・マルノーヴに来るまでは。 「いたぞ、敵の船だ! タアァァリホオオォォォオオオォォオウ! 機関銃! 篝火に撃てぇ!」 彼は明らかに楽しんでいた。 銃架に据えられた74式7.62ミリ機関銃と、船首側に陣取った隊員の89式小銃が発砲する。二種類の異なる轟音が耳朶を叩き、発砲炎が目を灼いた。曳光弾が闇に吸い込まれる。 美しささえ感じさせる光が肉眼ではまだ見えない敵に吸い込まれていった。 「是俣三尉! 左前方に光! 敵らしい!」 「左舷、各個に撃てぇ! 前に撃てるのは我が艇だけだぞ!」 左舷側に発砲。整然と並んで見えていた光が乱れるのが分かった。正面では何かが燃えている。敵の軍船に引火したらしい。 2隻の針路は是俣三尉に一任されていた。そうでなければ、現状で戦闘機動を行うことなど不可能であるからだ。 彼らがいるのは海ではない。付近の川幅は300メートルはあったが、現在の速力で走ればほんの30秒足らずで岸に乗り上げてしまう。しかも操縦には細心の注意を要する上に、速度をあまり落とす訳にもいかないのだ。 飛沫と汗と、おそらく涙で顔をぐしゃぐしゃにした操縦手は、是俣三尉の命令で必死にハンドルを操作している。 「是俣三尉! これ以上は無理ですよォ!」 「泣き言を言うな! 距離100で左に転舵、全火力で一気に叩くぞ!」 「畜生! 何がダンスパーティーだ! ヘヴィメタルのライブより酷ぇ!」 操縦手はヤケクソになって叫んだ。 〈帝國〉軍南正面を突破した2隻の特別機動船は、一本の棒となってマワーレド川を北上し、正面に遊弋していた〈帝國〉軍船に射撃を集中した。200メートルの位置から放たれた銃弾は装甲のない貧弱な船体をその乗員ごと穴だらけにした。 本営の命令を受け迎撃態勢をとろうとし始めたばかりの〈帝國〉軍部隊の多くは、攻撃に対応できていない。渡河途中のオーク重装歩兵たちは筏の上で慌てふためくだけであったし、長弓隊も目標を見失っている。 唯一小回りの利く魔術士部隊が、ルルェド西岸の支城の城壁上で隊列を整え始めていた。 「一体、何が来たのだ!?」 ジャボール兵団魔術士隊第2分隊長のエリアス・ユルカは戦慄を覚えていた。本営からの命令を受けた当初は、無謀な敵が死にに来たと思っていた。 数日前まで敵のものだった支城から見下ろす味方の陣容は圧倒的で、もはや敵の運命は風前の灯火に見えていたのだ。 ──それなのに。 彼の位置から数百メートル南の川岸に布陣していたオーク重装歩兵の陣が大混乱に陥っているのが分かる。松明が右往左往しているのだ。川面にミズスマシのように浮かんでいた軍船部隊も酷い有様のようだ。 光弾が飛んでいる。それも無数に。あんなに遠くから。 敵の放つ光弾が彼の位置からよく見えた。閃光が煌めく場所が術士のいる場所だろう。川の上だ。軍船に乗ってこちらに迫っている。 「ユルカ様、我々は悪夢を見ているのですか? あんなことが出来る術士とは……」 「言うな。俺も信じられんのだ」 彼らは、南方征討領軍には珍しい攻撃魔術士部隊である。だからこそ目の前の光景が如何に異様なことなのかが、他の何者よりも理解できた。 南瞑同盟会議の魔術士だと思われる敵が放つ攻撃魔法は、あまりに多く、射程が長かった。例え威力の弱いエネルギー・ボルトだとしても、あんな勢いで放てばあっという間に魔力が尽きるだろう。 およそ人の為せる業ではない。魔神を召喚したのでもない限り。 だが、彼はただ恐れている訳にはいかなかった。魔術士たちを率いる分隊長として、敵に立ち向かわねばならない。実力がものを言う南方征討領軍にあって、怯懦は許されない。 閃光の発生源は恐ろしい速度で近付いている。眼下の味方は止められないだろう。すぐに支城の眼前に到達すると思われた。ユルカは射程に入り次第、全火力で攻撃すると決心した。 「詠唱を開始せよ。我が命により一斉に放つぞ。敵も当たれば血を流し倒れよう」 熟練の魔術士である彼は、まず『暗視』の術を練り、詠唱した。地に満ちる魔力が彼の両目に集まる。青白い炎のような光が彼の瞳を闇の中で微かに浮かび上がらせた。視界が急速に明るくなる。暗闇と光だけだった景色が、輪郭を取り戻した。 続いて、低い声で攻撃魔法を練る。周囲の喧騒が遠ざかり、不可視の力が手にしたスタッフに集まるのが分かった。彼の部下たちも術力の差こそあれ、同様に攻撃魔法の準備を整えていった。 前方の2隻が放つ射撃は、敵を十分に混乱させているようだった。後続する旗艦の上で、西園寺三佐は手応えを感じていた。 このまま敵を混乱に陥れ、渡河途中の敵を叩き潰す。そうすれば城内に侵入する敵は断たれるだろう。突撃戦隊の狙いはその一点だった。無限に敵が侵入してくるようでは、もうすぐ飛んでくるはずの空挺が苦労する。 前方左右の陸岸に建造物が見えてきた。右手で炎を纏い闇夜に赤く浮かび上がっているのがルルェド城塞、左手に黒々と沈んでいるのが支城だろう。西園寺は少しだけ思案した。すぐに結論を導き出す。彼女は戦場において時間がどれだけ貴重な物かを、感覚的に知っている。 「先任」 「はい」隣に立つ久宝一尉が応えた。 「左に見えるお城の上を叩いてちょうだい」西園寺が言った。「どうせ〈帝國〉の方々が詰めているわ。あたくしのかわいい部下たちが撃ち下ろされるのは御免よ」 「了解しました」口調はともかく、西園寺の判断は至極真っ当だったので、久宝は素直にうなずいた。 すぐさま旗艦と後続する特別機動船から支城に向けて射撃が開始された。曳光弾が城壁に集中し、弾かれた弾があちこちに散る。鈍い音を立てて石造りの頑丈な城壁が砕けた。 背後の味方から左前方にそびえ立つ城壁に向けて射撃が開始されたのを見て、是俣三尉はずっと浮かべていた笑みをさらに大きくした。手持ちの火力は限られている。側面を支援してくれるのは有り難い。 「正面の敵まで100メートル!」機関銃に取り付いている陸警隊員が叫んだ。 「取舵! 速力落とせ! 回頭終わり次第打ち方始め!」 是俣の1号が大きく左に舵を切った。船体が右に傾く。急制動がかかり船は一度大きく揺れた。僚船も後に続く。 高速で突進しながらの射撃は、流石に命中率が低下していた。特に隊員が構える小銃はどうしても射線が上擦っている。敵を混乱させるには問題無かったが、完全に叩くにはもう一押し必要だと是俣は考えた。叩き切らぬまま突入するのは流石に危険過ぎる。 この距離で一度射撃を集中する必要があった。 右側面を敵に向けた2隻の特別機動船から、10を超える火線が伸びた。盛大に薬莢をばらまきながら銃弾が放たれる。 いいぞ。俺は剣と魔法の世界にいる。そして、戦っている。鎧を着た妖魔相手に、7.62ミリ弾を叩き込んでいるんだ! 是俣は今まで感じたことのない手応えを得ていた。多幸感が全身を満たしている。夢が叶ったとまで思っているのだった。 三人兄弟の末っ子だった是俣が、長男に連れられてTRPGサークルの定例会に足を踏み入れたのは中学一年の時だった。彼の人生はその時決定したと言ってよい。多感な思春期に触れるには、それは少々強烈過ぎた。彼はたちまち虜となった。 高校生になるころには、是俣は色々と拗らせた青年へと成長していた。彼が『普通』と少し違うのは、本当に備え始めたことだった。俺はいつか異世界に行くんだ。そして萌葱色の服を着た髪の長いハイエルフと旅をするんだ。毎日そう夢を見た。 彼は就職先に自衛隊を選択した。戦う術を学ぶためである。異世界で身を立てるには、己を鍛えておかなければならない。そう考えたのだ。 適正なのか枠の都合なのか、どういうわけか海自に入隊してしまったが、是俣は腐ることなく『その日』に備えて己を鍛え続けた。 「いいぞぉ! むえーい! 喫水線に射撃を集中しろ!」 平凡な『現実』は去年の夏に砕け散った。そして今、彼は本当に異世界にいる。 ユルカの魔術士分隊は、敵の攻撃をまともに受ける羽目になった。詠唱に集中していた彼の部下たちは、こちらの魔法が届かない距離から飛来した光弾によって、城壁ごと砕かれたのだった。 血塗れの魔術士が、手足を奇妙な方向に曲げた姿で死んでいる。腕を失った部下が静かに痙攣する姿を見て、奇跡的に難を逃れたユルカは唇を噛んだ。 外道め! 一矢報いるまでは死なんぞ。 この時点で、〈帝國〉軍部隊はようやく敵の力を認め始めた。被害を受けたオーク重装歩兵が後方へ下がり、無傷の隊が河辺に進んだ。指揮官たちは的になることを恐れ松明を消させた。 支城の上でも遅れて配置に付いた長弓隊が、敵から見えないようにやや後方で隊列を組んでいる。 しかし、水上に展開していたオーク重装歩兵隊の一部は悲惨だった。筏を浮かべ両岸に索を張り、それを伝って川を渡っていた彼らは、突撃戦隊の射撃を正面から受けたのだ。ただで済むはずが無い。たちまち四割が死傷し、残りの多くも水中に投げ出された。 魔術士分隊は分隊長のユルカだけが戦闘力を保持していた。瓦礫と化した胸壁の合間から、水面を見下ろす。火龍のように火を撒き散らしながら、敵の軍船がゆっくりとこちらに近付いてきているのに気付いた。 やつは腹を上流に向けている。少し遠いが、必ず撃ち込んでみせる。 彼は身を曝した。右手のスタッフを敵に向ける。憎しみが、彼に人生最良の集中力を与えた。青白い魔力の光が、スタッフに集まる。発光する光苔の胞子にも似た粒が、螺旋を描く。 あと、少し。今少しこちらに気付くな。どでかい奴を喰らわせてやるから。 ユルカは魔力が解き放たれるために必要な、最後の呪文を詠唱した。 いい、すごくいいぞ。正面の敵はあらかた叩いたな。これだけやれば、これ以上ルルェドへの侵入は出来まい。 是俣三尉は素早く辺りを見回した。上流方向の敵筏は、沈むか燃えるか無人となって漂うかという有り様で、もはや脅威は無い。軍船も同じだ。対岸にいくら兵を集めても渡河手段を断てば城には渡れない。 これで、守備隊を助ける目が出てきたはずだ。まだ見ぬ異世界の戦士たち。麗しい女騎士や、白髪の老魔術士を、俺は助けられたのかもしれない。最高だ。隣にリユセのエルフがいたらもっと最高だったのに。 その時、崩れかけた城壁の上に動きがあることに、是俣は気付いた。距離は100を切ったあたりか。敵? 身を曝して何をしている……? 「機関全速! 面舵一杯! 急げェ!!」 是俣は間髪入れず叫んだ。背中をどやしつけられた操縦手が慌ててスロットルを開く。船首が持ち上がり、飛沫が隊員たちを濡らした。 魔術士! 生き残りがいたか。 彼の副腎髄質から大量のアドレナリンが放出された。瞳孔が開く。いい具合にドーパミンで満ちていた彼の内部を、新たな神経伝達物質が駆け巡った。 エンジンが唸りを上げ、船首が右に振れる。速力が急激に増した。魔術士。何をしている? 決まっているだろう。攻撃魔法だ。やつは反撃しようとしている。 ローブの裾を翻し雄々しく立つ敵の魔術士の姿が、真夜中にも関わらず是俣には何故だかはっきりと見えていた。陸警隊員が射撃を開始する。曳光弾が魔術士に伸びる。 駄目だ。当たらない。畜生、なんて綺麗なんだ。魔法。本当に魔法だ。敵の魔術士の杖の先がひときわ大きく輝いた。青白い巨大な光弾が発生する。それは真っ直ぐに此方に向かって飛んでくる。 切音。射撃音。部下の悲鳴にも似た報告。様々な音が是俣の脳内を満たす。大きく右に転舵したせいで左側は水面に手が届きそうなほど傾いている。光弾が迫る。 これだ。俺は今、剣と魔法を味わっているんだ。 是俣は喜びと恐怖とその他様々な感情に満たされ、湧き起こる内なる声に蹴飛ばされるように、叫んでいた。 いいぞ! 畜生! これこそが──。 「アァァァル! ピィィィイ! ジィイイイイ!」 「SB1号左舷、至近弾!」 見張りの報告を受け、西園寺は前方に目をやった。巨大な水柱が、多量の水蒸気を伴って特別機動船1号の船体にのしかかっていた。一瞬姿が見えなくなる。 さらに、旗艦を含めた突撃戦隊の周囲に矢と重たい何か──岩だ。赤ん坊の頭ほどある岩が降り注ぎ始めている。 「あら、もう立て直してきたのかしら。意外にやるわね」西園寺は眉根を寄せた。流石に監視哨の敵とは格が違うようだ。 「ひょっとして、深入りしてる?」 「はい。危険な状況に陥りつつあると判断します」 小首を傾げた西園寺に、久宝が冷徹さを感じさせる声で言った。船体に当たった岩が派手な音を立てた。 「わッ、危ねぇ!」 「頭に喰らったらやべぇぞッ!」 陸警隊員たちがたまらず悲鳴を上げた。どうやら岸の敵部隊から投げ込まれているようだ。 「SB1号より報告。艇指揮負傷、戦闘続行可能」 「そう」 「敵は十分に叩きました。一度後退し、態勢を立て直すべきです」久宝が進言した。 「嫌よ」間髪入れず否定する。「あたくしはただ逃げるなんて好みじゃないわ」西園寺は傲然と言い放った。 「しかし! このままでは!」久宝は怒りすら込めて言い募った。この上官はこんな時に何を言っているのだ。顔がそう言っていた。 「先任、早とちりしないでちょうだい。いくらあたくしでもこの場に留まるつもりはないわよ。全艦正面の敵を突破、上流にて態勢を立て直す」 「そっ!?」 「嫌な予感がするの。下流には。突破は十分可能でしょう?」 大きな瞳でじっと見つめられ、久宝は少し慌てた。確かに正面の敵はほぼ壊滅している。反転して南に下るより、上流の方が手薄の可能性は高い。彼は上官の命令に従った。 「突撃戦隊各船に命令を出します」 「急いでちょうだい」 少しは助けになったかしら? 西園寺はルルェド西壁を見た。各所で火の手が上がり、勝ち鬨のような声すら聞こえる。残念なことに味方の旗印を見つけることは出来なかった。夜だから、という訳ではない。間に合わなかったのかしら。彼女は、僅かに表情を曇らせた。 西園寺率いる突撃戦隊は、素早く陣形を整えると上流に向けて速力を上げ始めた。陸からの射撃はいや増すばかりだ。突撃戦隊側も、有らん限りの火力を〈帝國〉軍にぶつけている。 戦闘はますます激しさを増している。一方で、敵味方が入り混じる戦場には、新たなプレイヤーが乗り込もうとしていた。
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376 :reden:2012/04/20(金) 20 33 03 ID wlaiBnjM0 355-357さん 359さん まぁ貴族制・専制君主制が主流のこの世界でソ連の存在は劇薬でしかないですからねぇ。 ネウストリアとしては元の世界にのしつけておくり返したいところでしょう。 ヨークタウンさん 赤軍の進撃は会戦から逃げ延びた僅かな将兵たちによって尾ひれ付きまくりで伝わっていたりしますw 360-364さん 366さん 戦艦の建造…実際のところバルト沿岸諸都市が纏めて内陸都市になった際に、商船隊から補助艦艇に至るまで半壊してますから(汗 たぶんその再建がさきになるかと。 365さん 368-372さん 一言で言えば、想像力の欠如というところですね。 魔法文明によらず、自分たちを圧倒できる文明圏が存在するということ自体に考えが及ばなかったのが今回の失敗原因かと。 373さん 傀儡国家というのはありだと思います。 問題は、現地の被支配民族にどれだけ人材がいるかということで、最悪ソ連が人材・統治費用総負担のお荷物国家に… 374-375さん ベリヤのNKVDによる【適切】な保護……嫌な予感しかしない。
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第99話 七人の潜入者 1483年(1943年)12月28日 午前8時 バルランド王国ヴィルフレイング その日、エリラ・ファルマント軍曹は慌てて宿舎から飛び出した。 「ああ、もう!あたしって馬鹿だわ!」 エリラは、顔に焦りの色を滲ませながら、素早く軍服を身に着けていく。 走りながら服をつけると言う作業は、なかなかに難しい物だが、彼女は慣れた手付きで服を着け終わった。 「おーい!気を付けて行けよ!」 エリラが乱暴に開けたドアの向こうから、上半身裸の男がエリラを見送る。 彼女のボーイフレンドであるリンゲ・レイノルズだ。 「わかったわー!じゃあ、今度の休日にねー!!」 エリラは後ろのリンゲに返事しながら、目的の場所に向けて猛ダッシュして行った。 彼女は、午前8時10分には、ヴィルフレイング港の南にある南太平洋部隊司令部で打ち合わせをする予定である。 本来ならば、エリラは7時40分までにはリンゲの泊まっていた宿舎から出て居なければならなかったが、どういう訳か、 起床した時には時計の針は午前7時50分を指していた。 慌てた彼女は、昨夜の疲れを引きずりつつも大急ぎで朝風呂に浸かり、5分ほどで終わった後、ハイスピードで準備を終えた。 南太平洋部隊司令部に到着したのは、午前8時12分であった。 彼女は全力疾走で司令部1階にある部屋の前に辿り着いた。 (ふぅ~、ちょうどこの司令部に向かっていたジープを掴まえる事が出来たわ) エリラは心で思いながら、ドアを開けた。 「おはようございます!エリラ・ファルマント軍曹、ただいま到着しました!」 彼女の挨拶に、部屋で待機していた者達が一斉に振り向いた。 「馬鹿!遅刻する奴があるか!」 既に来ていたラドム・バンナム中尉が怒った表情で彼女を叱る。 「あれほど遅刻をするなと言ったのに!この遅刻魔が!」 「す、すいません・・・・・」 「まあいい。とにかく座れ。」 バンナム中尉は、呆れた表情を浮かべながら、空いている席に向けて顎をしゃくった。 エリラは申し訳なさそうに、集まった者達にすいません、すいませんと言いながら席に座った。 「さて、これで全員集まりましたな。」 エリラが席に座ると、黒服の男が待っていたかのように口を開いた。 「私は、セルゲイ・ウォストルフと申します。ここにいる者達は、私がOSSで編成、指揮している工作員です。 工作員のリーダーは、私のすぐ右斜めにいます、アロルド・ヴィクター中尉です。」 「ヴィクターです。よろしく。」 角刈りでごつい体格をした黒髪の男が、エリラとバンナム中尉に向けて一礼する。 セルゲイ・ウォストルフは体格はやや痩せ型であるが、身長は190センチと高い。 掘りが深い顔立ちをしており、性格は温厚そうだ。 彼は元々、ソビエト大使館に勤務していた内務人民委員、通称NKVD所属の連絡官である。 NKVDで情報関係の仕事を多くこなしていた彼は、転移から3ヵ月後にOSSからスカウトされ、そのままOSSの局員に採用された。 OSSで訓練を受けた後、ウォストルフは1943年2月に南大陸へ派遣された。 彼はそこで、陸軍出身のアロルド・ヴィクター中尉が束ねる工作部隊を指揮する事になった。 ウォストルフの指揮する工作部隊は、ヴィクター中尉を始めに、ヴェリンス、ウェンステル人の志願者6人で編成され、 シホールアンル地上軍に関する情報収集や後方撹乱に従事した。 ウォストルフ自身も2度ほど、この部隊と行動と共にしており、9月に起きた11月攻勢作戦では、シホールアンル軍補給部隊の襲撃に従事し、 大きな戦果を収めている。 エリラから見て、修羅場を幾度も潜り抜けたヴィクター中尉らは、どの顔も一癖も二癖もあるような面構えの者ばかりだ。 (あたしも何度か危ない任務をやって来たけど、彼らも結構実戦慣れしているわね) 彼女は一通り工作員達を見て、そう判断した。 「アロルド、彼女が君達の“変身薬”を作ってくれるエリラ・ファルマント軍曹だ。」 「あ、初めまして。」 「ほう・・・・君が変身薬を作ってくれる魔法使いさんか。」 ヴィクター中尉は、物珍しそうな表情で、エリラをまじまじと見つめた。 「魔法使い、にしては、意外といい体しているな。お前さんも、裏方仕事をしてるのかね?」 「わかりますか?」 「わかるとも。」 ヴィクター中尉はニヤリと笑った。 「普通の女にしては、なかなかの体つきだ。恐らく、荒くれ男の3、4人は軽く片付けちまうだろう。バンナム中尉。あなた方は特殊部隊ですね?」 「はい。カレアント陸軍の特殊戦専門の部隊に所属しています。」 バンナム中尉は頷いた。 「やはり。」 「同じ者同士、と言う訳ですな。」 「そう言う事ですね。セルゲイ、君もなかなかいい奴を選ぶじゃないか。」 ヴィクター中尉はウォストルフに言った。 「たまたまさ。」 ウォストルフは肩を竦める。 「OSS本部には優秀な奴を頼むって言ったんだ。まあ、見つかるまで少し時間掛かったがね。」 「ファルマント軍曹。君はこれまでに敵を殺した事はあるかい?」 「ええ。何度もあります。」 エリラは、一瞬だけ冷ややかな表情を浮かべて答えた。 「深手を負って死に掛けた事もありますが、何とか乗り越えました。」 「ふむ。場数は結構踏んでいるようだな。そこらの一般兵よりかは優秀だな。」 「遅刻してくる人が優秀と言えるかねぇ。」 いきなり、小馬鹿にしたような声が聞こえた。 「おいおい、イルメ。そんな事言うなよ。」 ヴィクター中尉は苦笑しながら、腕を組んで座っている女性に注意する。 「だってさ、待ち合わせに遅刻したんだよ?それで優秀とは、あたしとしてはどうかと思うね。」 「何よ。いきなり喧嘩腰な口調で言わなくてもいいじゃない。」 エリラはむっとした表情で、イルメと呼ばれる女性に言い返す。 「まあまあ。落ち着いてくれ。イルメは口はきついが、根はいい奴なんだ。彼女の言葉はあれで挨拶代わりみたいなもんだ。」 「挨拶にしてはきつすぎると思うんですけど・・・・・」 エリラは内心で、イルメの事を批判しながらも、話を進めた。 「まあそれはともかく。今回、近いうちに実行されるであろう北大陸潜入作戦に、私も同行させてもらう事になりました。 皆さんと会うのは今日が初めてですが、足を引っ張らないよう努力します。」 「意外と控えめな挨拶だな。」 ヴィクター中尉が感心したような口調で言う。 「ええ。こいつは元々内気な性格でしてね。あまり自分を飾ろうとしないんですよ。まあ最近は彼氏が出来たんで、 少々態度がでかいですが。」 「先輩、余計な事付け加えないで下さい!」 バンナム中尉の一言に、エリラは怒ったような口調で戒めた。 「ふ~ん・・・・じゃあ、今朝の遅刻の原因は彼氏と付き合ったせいなのかな?」 イルメの言葉を聞いたエリラは、いきなり顔を赤らめた。 「な!そりゃあもち、じゃなくて。なんでそんな事になるんですか!」 「おい、イルメ。あまりいじめるんじゃないよ。」 ヴィクター中尉が、やや呆れた表情でイルメに注意する。 「あっと、ごめんね。ちょっと言い過ぎたかな。」 イルメはわざとらしい口調で謝った。 (こいつは!) エリラは内心で、この性格ひねくれ女をぶん殴ってやろうかと思った。 その心とは対照的に、 「まあ、別にいいですよ。こういう事は慣れていますから。」 妙に爽やかな表情で返事した。 「さて、ここで自分達も自己紹介と行こうか。」 ヴィクター中尉は、工作員達を一人一人紹介していった。 まず最初に紹介されたのは、さきほどからエリラをいじっているイルメである。 名前はイルメ・ラトハウグといい、年齢は21歳。出身地は南部ウェンステルである。 身長はエリラより少し高い。。顔立ちは端整で、目はやや吊り上がってきつめに見えるが、それほど悪い印象は受けない。 (エリラは既に悪い印象を抱いている) 髪は赤毛で、ポニーテール状に纏めている。恐らく、長さは腰の辺りまであるだろう。 全体的なスタイルは、胸を除けばよく纏まっている。むしろ、女性にしてはがっしりとしている感じだ。 次に紹介されたのは、イルメの隣に座っている男である。 名前はロウク・ウイラ、年は28歳で、出身地はウェンステル北部のようだ。 身長はやや低めで、体つきは痩せているが、どこか理知的な顔立ちをしている。 ウェンステルから脱出する前は、現地で狩人をやっていたようで、ウェンステルの山岳地帯はほぼ全て行き尽くしたと言っている。 ロウクの隣に座っているがっしりとした体つきの男は、ライバ・ハルムットと言い、年齢は27歳。出身地はヴェリンスである。 身長は大きく、優に2メートル近くはあろう。体格もまた筋骨隆々と言う言葉が合うほどがっしりとしており、どんな敵に会っても 一撃でねじ伏せそうな印象がある。 それでいて、顔立ちはどこか優しげであり、性格も豪胆そうに見えながら、実は繊細さを兼ね備えた武人でもある。 元々は、ヴェリンス陸軍の小隊長であり、ヴェリンスから脱出するまでシホールアンル軍と戦っていたようだ。 チームでは一番のタフガイとして頼られている。 その次に紹介されたのは、ハムク・ナサンドと言い、年は今年で27歳を迎えたばかり。 体格はやや痩せており、常に陰険そうな顔つきをしている。口数も少なく、必要最低限の事しか喋らない。 出身はヴェリンスで、奇遇な事にライバと同じ旅団に所属しており、彼もまた小隊長としてシホールアンル軍との戦闘を経験している。 一見、ライバとハムクは全く合わないように見えるが、不思議にも彼ら2人はウマが合い、困った時には時折、いいアイデアを出してくれると言う。 次に紹介されたのは、イルメと対面するように座っているホウト・ルコングと言う名の男である。身長は普通ぐらいで、エリラと同じである。 (エリラは身長168センチ) 年は21歳で、顔立ちは掘りが深いが、全体的に端整と言える。 何よりも、ホウトはかなり陽気であり、自己紹介の最中にもエリラに対して冗談を言うなど、かなり明るい男である。 出身地はウェンステル南部で、元々は砂漠の行商人をやっていたようだ。それが、シホールアンル軍との戦争で彼は徴兵され、 その後ウェンステルから脱出したと言う。 最後に紹介された男は、ルーク・ラウフォンと言い、出身地はヴェリンスである。 年齢は20歳で、エリラとほぼ同じである。顔立ちは一見無愛想に見えるが、性格は控えめながらも、それでいてあっさりとしている。 元々、ヴェリンスに居た頃は獣医として勉学に励んでおり、シホールアンル軍が侵攻してきた際には、彼は衛生兵として志願入隊している。 動物に関する知識が豊富な事から、彼は仲間内で「獣医さん」という渾名を頂戴している。 (少人数ながら、結構個性のある人ばっかだわ) それぞれの自己紹介が終わった後、メリマはそう思った。 「まあこんな面々だが、よろしく頼むよ。新入りさん。」 ヴィクター中尉は微笑みながらエリラに言って来た。 「では、これから本題に入ろう。これから説明する事は、全て他言無用だ。」 ウォストルフは、作戦の詳細を説明し始めた。 「我々は、来年の1月8日に、太平洋艦隊の潜水艦に搭乗して、一路ウェンステル北部に潜入する。君達の任務は、シホールアンル側が 探しているであろう、ある人物の保護、そして後送だ。」 「ある人物、ですか。その人物と言うのはシホールアンル側の政治犯なのかな?」 「政治犯・・・・のようなものだが、実際は違うようだ。私が聞いた所によると、その人物は、シホールアンル側によって魔法実験を行われた。」 「魔法実験って、まさか生身の体に!?」 エリラは驚愕したような口調で聞いた。 「そうだ。その結果、保護対象はとんでもない超兵器として使用できる可能性を秘めているようだ。上層部は、もしこの保護対象が シホールアンル側に拉致されれば、今後はこの保護対象を元に超兵器を量産され、以降の戦局に大きな影響を与えかねないと判断している。」 「そこで、その保護対象を俺達が連れて来る、と言う訳か。」 「その通りだ。」 「保護対象の名前はわからないのでしょうか?」 話を聞いていたライバが口を開いた。 「残念ながら、名前は判明していない。ミスリアルの情報機関から渡された情報には、その保護対象は、自らを赦されざる魔の鍵、 と名乗ったそうだ。」 「赦されざる魔の鍵・・・・どうも不吉な呼び名ですな。」 「魔の鍵ねぇ。その保護対象さん、自分にそう言ってカッコ付けてるんじゃないの。」 「さあ、そればかりは直接会って話さないと、わからないね。」 イルメの小馬鹿にしたような感想に、ホウトが苦笑しながら相槌をうつ。 「ウォストルフさん。その保護対象の情報は、他にないんですかい?」 ライバの野太い声がウォストルフに向けて発せられる。 怒鳴ったらかなり怖そうな声だわ、とエリラは一瞬思った。 「目立った情報は余り無かったが、その代わり、こんな物を借りてきた。」 ウォストルフは、置いていた革の鞄から一枚の紙を取り出した。 まず、ヴィクター中尉がそれを見、次に他のメンバーが紙に書かれた似顔絵を見た。 最後にエリラが似顔絵を見た。 「これが、保護対象。女の子なんですね。」 「何か、友達にはしたくないような子ね。あたしはこんな根暗そうな子は嫌いだね。」 「いきなり嫌いだ、と言うのはどうかと思うが、暗そうだなっていう部分には僕も賛成だな。」 イルメとルークがそれぞれ感想を漏らした。 「君達もそう思うかね。」 ウォストルフが苦笑する。彼もまた、このメンバーが抱いた物と同じ事を思ったのであろう。 「ミスリアル側は、限りなく本人に近いと言っている。この暗そうなお嬢さんを探すのが、君達の任務だ。」 「ウォストルフさん。自分達がこうやって探すとなると、当然シホールアンル軍もこの女を探しているんですよね?」 「そうなるな。」 ウォストルフは頷いた。 「シホット共も、血眼になって探している。現地のスパイからの情報では、似顔絵を持って、このような根暗そうな女は 見なかったか?と聞いて来た2人組の男女が居たとの報告も入っている。」 「敵さんも、徐々に手がかりを見つけつつあるようだな。」 「問題は、保護対象の情報が少ない事ですよ。」 ライバは念を押すような口調で言って来た。 「今あるのは、保護対象が北ウェンステルに居るらしいとの情報だけ。北ウェンステルのどこにいるのかは、全くわかりません。 保護対象は、当然追われている身ですから、ウェンステル中を逃げ回っている可能性がある。ウェンステル北部はさほど大きい 地域ではありませんが、それでも相当な広さです。西側には峻険な山岳地帯もあります。このような地域で、少人数だけ投入して 探す、というのは、現状からして少し難しいと思います。」 「確かに、難しいな。」 残りのメンバー全員が、険しい表情を浮かべて頷く。 だが、ロウクだけは何かを思い出したのか、はっとなった表情で口を開く。 「いや、北部ウェンステルに居るとなれば、逃亡ルートは限られる。」 「何だって?」 ライバは怪訝な表情を浮かべて聞いて来た。 「本当に限られるのか?北部ウェンステルは意外と広いんだぞ?」 「ああ。確かに広いよ。北部ウェンステルは広いし、不思議な土地だからな。南には砂漠があるし、少し内陸に進めば草原があり、 西には峻険な山岳地帯がある。だが、山岳地帯には、東側に比べて人はあまり多く住んでいない。山岳地帯の多い西側は、何かと不便でな。 平の土地が続いている中部や東側のほうが物も取り易い、行き来もやり易いから、ウェンステル人は好んで中部や東部地区に住まいを構えている。」 「北部じゃそうだったみたいね。」 イルメが口を挟む。 「南部じゃ、山岳地帯はあれど、北部ほどでもなかったから人口密度は全体的に平均だったわ。そう言うあんたは確か、西側の出身だったわね。」 「ああ。子供の頃から猟器具片手に、親に連れまわされたよ。」 「君の言いたい事が分かったぞ。」 ライバは納得したような口調で言った。 「私達が探そうとしている保護対象は、シホールアンル側のお尋ね者だ。人口密度の多い土地には、その分シホールアンル側の駐留部隊も 多くなる可能性が高い。お尋ね者はそれを恐れて、まず人目の付きにくい場所を選ぶ。だとすれば、保護対象は、西側の山岳地帯周辺に 隠れている可能性がある。そうだろう?」 「ご名答。」 ライバの質問に、ロウクはニヤリと笑みを浮かべて答える。 「無論、山の麓にも人は住んでいる。西側の有名どころはルベンゲーブだな。だが、大きな町もルベンゲーブぐらいだ。 後は小さい町や村しかない。そして、駐留するシホールアンル軍も、自然に縮小されて来る。つまり、保護対象の行動範囲は、 西側の山岳地帯周辺に限定される、と言う訳だ。」 「そうなんですかぁ。流石は現地の人ですね。」 エリラは、鍵の行動範囲を的確に判断したロウクを感心した。 「だが、問題はまだあるぞ。」 ヴィクター中尉はそう言いながら、懐から地図を取り出した。 「これは、陸軍航空隊の奴らが作ってくれた地図だ。ロウクの言う西側の山岳地帯が、ここだ。」 ヴィクター中尉は北ウェンステルの西側を叩いた。 「ロウクは西側の山岳地帯に隠れている、と言っていた。しかし、この西側の山岳地帯は、南北に180マイル(288キロ) も連なっている。地図ではこんなに短いが、実際には180マイル以上もある山岳地帯だ。最低で2000メートル、最大で 6000メートル級の山々が連なるこの周辺を、少人数で探すには相当な時間がかかる。ウォストルフ、これではシホット共に 先を越されてしまうぞ。」 「うーむ・・・・・こいつは困ったな。」 ウォストルフは困惑した顔つきになった。 (この作戦は、成功しても、失敗しても、今後の戦局に影響が出て来る。保護対象は、シホールアンルの手に渡れば連合国にとって 非常にまずい存在だ。かつての祖国が消え、このアメリカを新しい祖国と認めた俺としては、この作戦を何とか良い方向に持って行きたい。 だが・・・・・) ウォストルフは、ヴィクター中尉が広げている地図を見る。 地図からすれば、わずか10センチにも満たぬ山岳地帯。しかし、実際には180マイル以上の長さに渡って連なる大山脈である。 この長大な山脈から、たった1人の女を捜さねばならないのだ。 (広大な砂漠の中から、1つの小さい針を探すようなものだ。) ウォストルフはそう思いながら、次第に不安な気持ちになりつつあった。 「あの・・・・・リーダー。話を続けていいでしょうか?」 「ん?まだ続きがあるのか?」 「はい。」 ロウクは頷いた。 「ウェンステル西側に連なるこの山脈は、確かに大山脈です。恐らく、普通に探していれば、保護対象をシホールアンル側よりも先に 見つけるのは、ほぼ不可能と言えるでしょう。」 彼はそう言った後、窓に顔を向けた。 ヴィルフレイングは今、冬真っ盛りである。空は鉛色の雲に覆われている。雪は降っていないが、外はかなり冷え込んでいた。 「しかし、それは夏から秋にかけてのことです。今、季節は冬です。西側の山岳地帯では、高地であるが故に冷え込みが他の地域と 比べて差があります。それは、山に入っていくにつれて厳しくなります。今頃、山岳地帯の山々では雪が降っている事でしょう。 冬の時期に、山岳地帯で生活を営むものは少数派です。その少数派は、主にここに集まります。」 ロウクは、地図の一点を指でなでた。そこは、西側山岳地帯の南部に位置する場所である。 この近くには、あろう事かルベンゲーブ精錬工場があった。 「リンドスト-ユレインレーブ間の山岳地帯は、標高も低く、気温の低下も他と比べて激しくありません。それに加え、隠れるに 適した土地や洞窟が相当数あります。保護対象も我々と同じ、人です。もし、彼女が生き残る事にこだわっているのであれば、 このリンドストーユレインレーブ間に潜伏している可能性があります。」 ヴィクター中尉は、すぐにリンドスト-ユレインレーブ間の距離を調べた。 「・・・・凄い、大分捜索範囲が縮まったぞ。」 「どれぐらいの距離だ?」 ウォストルフがすかさず聞いて来た。 「かなり大まかだが、多く見積もっても南北に40マイル(64キロ)だな。周辺も捜索するから、もうちょい増える。まあ、距離は 大分減ったとはいえ、この人数じゃ、それでもきついがね。」 ヴィクター中尉は、少し自嘲めいた口調で答えた。 「確かにな。しかし、これなら、シホールアンル側よりも保護対象を早く見つけられるかもしれん。」 「ああ。見つけられる可能性は大分高まったな。」 ヴィクター中尉は、少しばかり安堵した表情で、ウォストルフに答えた。 「後は、変身薬という物の確保ね。」 イルメがじろりと、エリラを見つめる。 (何よ、あの女。さっきからあたしの事を眼の敵にして・・・!) エリラは、内心で不満を漏らしつつも説明を始めた。 「化身魔法については、あと2日ほどで完成します。この化身魔法は・・・」 エリラは、懐から試験管を取り出した。 「このような試験管に入れられた薬に入れられるように作られます。当初の予定では、1月2日に完成予定でしたが、色々支援を受けた結果、 今年の末までには完成する事になりました。」 彼女はそう言いながら、助っ人に駆けつけてくれたラウスに感謝していた。 この化身魔法は、以前、エリラが彼氏に対してやらかしてしまった性転換魔法が元になっている。 彼女はこの性転換魔法を元に化身魔法を開発したのである。 作業中は、バルランドから応援に駆けつけた(本当は上から極秘の命令で行かされた)ラウス・クレーゲル魔道士の支援や指導のお陰で、 エリラの魔法技術は徐々に向上していった。 「君の化身魔法とやらだが、どのぐらい変わるのかな?」 「今回はウェンステル人の特徴に合わせて化身魔法を開発したので、あなた方は通常よりはやや違う姿になります。例えば、こんな感じです。」 彼女は、作成中に書き上げたイラストを皆に渡した。 このイラストは、ラウスが連れて来た幾人かの手伝いを人体実験(!)しながら作成したものである。 イラストには、薬を飲む前の姿と、薬を飲んだ後の姿が書かれている。 体格的にはさほど変わりは無いが、顔立ちや外見はほとんど別人に変わっている。 「ちなみに、私はこのように、余分な物が付いてるんで、薬を飲んだ後は大体イルメさんのような姿になりますね。」 エリラは、自分の猫耳を指差しながら説明した。 「ふ~ん、こいつは便利だわ。これなら、敵にあたし達の素性が割れる事もない。あんたもやるわね。」 イルメが珍しく、エリラを評価した。 「いえ、それほどでも。」 「あんたも、これを使って彼氏が不倫しないか、影で監視できるわねぇ。」 「な・・・・!」 エリラは一瞬絶句した後、顔を赤くしながら席を立った。 「イルメさん!後でお手合わせ願います!」 「お、おい。エリラ!いきなり何を言うん」 「先輩は黙っててください!あたしはもう我慢できません!」 エリラは吼えるようにしてバンナム中尉に言った。 「馬鹿野朗!こんな事ぐらいで熱くなるな!ヴィクター中尉、すいません私の部下が・・・・って、何ニヤニヤしているんですか?」 「いや、ちょっとな。どうだイルメ?付き合うか?」 ヴィクター中尉は気にしていない。むしろ、面白くなってきたと言わんばかりの表情だ。 「ええ、受けて立つわ。見た所、彼女もかなり強そうね。勇猛の誉れ高いカレアント特殊部隊の実力、じっくり見せてもらうわ。」 「おお、イルメが楽しそうなツラしてるぞ。エリラ、イルメは強いぜ?なんせ、1人でシホールアンルの強兵をあっという間に 10人もぶちのめしたほどだからな。」 ホウトが軽い口調でエリラに言って来た。 「そうなんですか。イルメさんが強いのなら、あたしもやりがいがありますね。では、この打ち合わせが終わった後、お願いしますね。」 エリラは戦士が浮かべるような気合の入った笑みを浮かべると、席に座った。 「全く、大事な作戦の打ち合わせ中に、決闘の申し込みをするとはな。」 「なあに、喧嘩をするほどなんとやらと言うじゃねえか。」 ヴィクター中尉は笑いながら、ウォストルフにそう言った。 「まっ、そう言うかもな。さて、打ち合わせを続けるとしようか。」 ウォストルフは気を取り直した後、打ち合わせを続ける事にした。 午前10時 南太平洋部隊司令部裏 「打ち合わせが無事に終わったのはいいんだが・・・・まさかこうして、決闘を見るとは思っても見なかったな。」 ラドム・バンナム中尉は、南太平洋部隊司令部裏にある、人目に付かぬ広場の隅に座っていた。 彼の他に、今日打ち合わせに参加したウォストルフや、ヴィクター中尉の率いる工作チームのメンバーもいる。 彼らの視線は、10メートル先にいる2人の女性に向けられている。 2人の女性のうち、1人は彼の部下であるエリラだ。 彼女は、動きやすさを重視するため、軍服の上着を取って、上は半袖の青い薄着のみ、下は長ズボンというスタイルだ。 相手は工作チームのメンバーであるイルメで、彼女もまた、薄い半袖にズボンと、動きやすい格好にしている。 「緊張しますね。」 エリラが不敵な笑いを浮かべながらイルメに言った。 「そう?」 「ええ。あなたは強いですから。」 「ふぅん。実は、あたしもちょっぴり緊張してるわ。」 「へぇ、気が合いますね。」 「ホントにね。」 イルメは微笑みながら返事する。 互いに拳を握り、姿勢を整える。2人の姿勢は異なっていたが、既に戦闘準備は出来ていた。 唐突に、イルメが素早い左前蹴りを繰り出してきた。それが、決闘の合図となった。 「早いな!」 バンナム中尉は、イルメの前蹴りが素早いと思った。まさに最初から本気の一撃である。 その一撃を、エリラは体を後ろ右斜めにずらし、そして右手で蹴りを受け流した。 直後、エリラの左フックがイルメの右わき腹に突き刺さろうとする。 しかし、その左フックがイルメの右手によって止められる。 すかさず、エリラは離れようとする。が、イルメは急に右の回し蹴りを放って来た。 素人から見れば、確実に当たると思ったはずだ。 しかし、エリラは顔を後ろに下げて、間一髪で鋭い回し蹴りを避けた。 そのまま後転して、一旦はイルメと距離を取る。 5メートルほど離れたエリラは、休む間も無く突進し、これまた素早い左の突きをイルメの顔面に叩き込む。 イルメはこれを右手で受け止めるが、すぐに2撃、3撃と突きが繰り出される。 エリラの打撃は素早いが、イルメの受けも素早い。一撃も有効打を与えぬと言わんばかりだ。 エリラが6撃目を打ち出した直後、イルメはエリラの顔目掛けて右の肘打ちを仕掛けた。 それが当たった、と思いきや、エリラは大きく姿勢を寝かせながら重い側頭蹴りをイルメの腹に放った。 イルメの体が吹っ飛んだ。いや、吹っ飛んだように見えた。 しかし、彼女は倒れる事は無く、数メートルほど後退しただけであった。 「ふぅ、いい蹴りね。受けなかったら派手に吹っ飛んでいたわ。」 イルメは、腹に当てた左腕を、右手でさすりながら言った。 左腕が赤くなっている。イルメは咄嗟にエリラの蹴りを、咄嗟に左腕で受けたのだ。 傍目から見れば、赤くなった左腕が実に痛々しい。 「そちらこそ、いい肘打ちをしてるわね。あそこでさっきの蹴りを放っていなかったら、今頃は相当なダメージを負っていたでしょうね。」 エリラは頬に汗を流しながら答える。よく見ると、額の左側からうっすらと血が流れている。 先の急な肘打ちは辛うじてかすったのみに終わらせたが、先端は皮膚を傷付けたのだろう。 「「本番はこれからよ!!」」 2人の戦士は、偶然に同じ言葉を叫びながら決闘を再開した。 決闘の最中、エリラとイルメは心底楽しそうな表情を浮かべていた。
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終わりと始まり 青森県むつ市 釜臥山山頂 航空自衛隊第42警戒群レーダーサイト 2012年 12月8日 5時32分 その日、下北半島一帯は高気圧に覆われ、好天を期待できる気象条件であった。未だ夜明けの気配すら無い釜臥山の頂上では、レーダーサイトに勤務する職員達が、一瞬たりとも途切れることの無い監視業務に従事していた。 釜臥山は、下北半島中央部恐山山系の最高峰で、標高は878.6メートル。眼下に陸奥湾を望む景勝地である。 ただし、この山の特徴はそれだけではない。釜を臥せたさまに例えられる山の頂には、特異な形状を持つ建造物が周囲を睥睨していた。 航空自衛隊第42警戒群が装備するJ/FPS-5警戒管制フェーズド・アレイ・レーダーである。通称ガメラレーダーで知られる電子の目が、本州最北端の地で空の守りに就いている。 「あと30分で、交代だなぁ」 長時間緊張を強いられた疲労も露わに、警戒管制員の九戸三曹が言った。 「はよ朝飯ば食いてぇなぁ」 彼の隣でしみじみとつぶやいたのは、気象班の晴山三曹である。彼が雑談をしながらも決して目を離すことがないレーダー画面には、識別不明機のプリップではなく、周囲の空模様がエコーとして映し出されていた。 6月の『北近畿騒乱』の後、突然の惨禍に見舞われた日本国民は、それを防ぐことが出来なかった政府の対応に、強烈な不満を示した。 政府は贖罪羊を見つけだそうとした。 政府内では、自衛隊情報本部、外事、公安警察、在外公館その他全ての情報関係部署が『事件前に大規模騒乱の兆候無し。周辺諸国、国内諸勢力の関与は考えられない』と、口を揃えた。 追及側は容易に信じなかったが、提出された資料、周辺諸国の対応、その他すべての情報がそれを裏付けていた。 逮捕者の取り調べに当たった警察も、匙を投げた。あらゆる証言と物件を組み合わせると、何をどうやっても『地球上に該当なし』となるのである。 政府は、世論と野党の追及に火だるまになりつつ、対応を迫られた。しかし、結果耐えきれず政権を失った。 「こんなジョークがある」 眠気覚まし、とばかりに九戸が言った。 「ほう」 「ある時、国民が敵対勢力に拉致された。 アメリカは、すぐさま空母機動部隊を派遣し、空爆と巡航ミサイル攻撃を行った。 イギリスは、すぐさま特殊部隊を投入し、人質を救出した」 「ああ、そんな感じだべな」 「イタリアは、人質が男だったのでやる気が無かった。 ロシアは、拉致犯の家族を捕らえ、『人質を解放しなければ家族を拷問して殺す』と発表した」 「あの国ならやりかねねえ」 「中国は『我が国にはまだ十四億の人民がいる』と発表した。 韓国は、謝罪と賠償を日本に要求した」 「定番だなぁ。」 晴山は笑った。 「日本は──」 「遺憾の意を表明したんだろ?」 九戸の答えは違った。 「いや、拉致された人質を見つけられなかった、だよ」 どこか気まずい、白けた空気が二人の間に漂った。九戸は頭をかきながらぽつりとつぶやいた。 「あんま、面白いジョークじゃ無かったな」 「んだな。──なんだか最近、どこもかしこもどんよりしてるなぁ」 日本には、どこか重苦しい空気が漂い始めていた。 新政権は、国内の治安維持を図るため、自衛隊法、警察法に始まり、銃刀法、警備業法、果ては農業関連の諸法規に至る様々な法律を改正した。 これらは安全を求める国民の支持を背景に、強力かつ速やかに推し進められることになった。 その背景に、実は『北近畿騒乱』の前から類似の事件が発生していたことが、捜査の進展によりあきらかになったことがある。 今まで有害鳥獣の仕業や猟奇犯の犯行とされてきたうちの何割かが、北近畿を襲った集団に類似する何者かによる可能性が出てきたのだった。 そして、それらは終結していないことも判明した。『北近畿騒乱』後も全国各地で小規模な事件は頻発していたのだった。 国民は恐怖し、対策を求めた。 その結果、自衛隊の弾薬の保管や出動に関する即応性は向上し、各地に分屯基地が設けられた。予算の増額も認められた。 警察は重装備化すると共に、派出所、駐在所が倍増、今ではあちこちにプロテクターとショットガンを装備した警官の姿を見ることが出来る。 また、過疎地や山間部における自己防衛が必要不可欠との要求から、警備業の規制緩和と銃刀法の改正による自警団の編成が進んだ。 当然、副作用は存在した。 警視庁及び大都市を抱える道府県警察内に新設された「特殊事案機動対処隊」略して「特機隊」は、防弾装備で全身を覆い、自前の装甲車や重火器を保有する、『北近畿騒乱』規模の事案に対処することを想定した部隊であった。 しかし、この部隊の性質上、当然のごとく機動隊、SAT、銃器対策班等との軋轢を産んだ。自衛隊との関係も緊張した。 また、危惧された銃刀法規制緩和による犯罪の増加は、警察の強化と自警団の組織が比較的円滑に進んだことから、予想より大分低い数値となったものの、人心は不安定化していた。 山間部の過疎地は危険とされ、廃村が続出、林業は低迷し里山も荒れた。アウトドア産業や観光業も打撃を受けている。 そして最も深刻なのは、拉致被害者の行方は一向に判明せず、いつどこで自分が襲われるかも知れない、という状況であった。 懸命の捜査にもかかわらず、犯人の手掛かりは無く、どれだけ守りを固めてもそれは根本の解決にはならない。 不安は澱のように人々の心に沈澱した。それが、世の中にどこか停滞した空気を招いていた。 当初は高い支持率を保っていた保守政権だった。 しかし、9月以降『隠岐島占拠事件』での西部方面普通科連隊による奪還作戦、相馬市騎馬自警団と武装集団による『相馬攻防戦』。 捕獲された生体サンプルの争奪が原因となった『防衛医大炎上事件』等が立て続けに発生、国民は被害の大きさに衝撃を受け支持率は低下し続けていた。 「へば、申し送りの準備するべ」 「了解」 もちろん、日本国政府はただ手をこまねいているだけの組織では無かった。 依然として行方不明者の手掛かりは見つからないものの、過去データの洗い直しにより、武装集団や特異生物の出現前には、ある現象が発生することを突き止めていた。 特定雲の発生である。 規模の大小はあるものの、事件の前には必ずこの雲が発生していた。そして、数時間後には消滅することが分かった。 政府はこの報告を受け、防衛省、国土交通省、気象庁等の関係省庁に対応を指示した。 各省庁は折衝と調整を繰り返した結果、気象、航空管制、警戒その他あらゆるレーダー施設に、気象観測用のドップラー・レーダーを設置、さらに組織の枠を越えて緊急通報システムを整備した。 J-ALERTと連動したこの警報システムが運用を開始した11月以降、国民の被害は一件も報告されていない。 九戸三曹と晴山三曹も、このシステムの一部であった。 「晴山さん、今日明けだろ。田名部辺りの店で一杯やろうや?」 チェックリストに鉛筆を走らせながら、九戸が言った。しかし、晴山の返事は無かった。 「──晴山さん?何か用事でもあるんか?」 レーダー画面を見つめる晴山の肩は小刻みに震えていた。 「いや、ねえよ。有ったとしても、今日は山降りらんねぇわ」 「ん?──こりゃあ、大変だぁ!」 九戸が覗き込んだその画面には、時計回りに渦を巻く、雲のエコーがはっきりと映し出されていた。 青森県むつ市大湊浜町 大湊漁港 2012年 12月8日 8時02分 港は猛烈な地吹雪に曝されていた。明け方までの晴天が嘘のようであった。 県警本部からの出動命令を受けた、むつ市警察署の城守一郎巡査は、防寒具と防弾装備でまるまると着膨れた姿で、雪に抗っていた。 雪が彼の視界を奪っている。恐らく10メートル先の者すら見逃すだろう。彼は巡回を命じられたらものの、同伴する同僚と漁協の職員と共に、途方にくれていた。 「なんもみえね!」 「化けもんに襲われたらひとたまりもねえべ」 彼が持つMP-5J機関けん銃は、通常であれば信頼性の高い高性能サブマシンガンであったが、現状では作動するかどうかすら不明であった。 「本部、こちら移動04。地吹雪で何も見えません。巡回は不可能です」 『移動04、周辺は異常ないか?』 無線の声は、城守の癪に障った。思わず言い返していた。 「だーかーらー!なんもみえねって!」 その時、風が変わった。北から猛烈に吹き込んでいた風が、まるで台風の目に入ったかのように収まったのだった。 見上げると、青空すら見えた。 「お巡りさん!あれ!あれ!」 漁協の職員が、怯えた声で叫んだ。城守が彼の指差す方向──海の方向を見ると、そこには一人の人間がいつの間にか現れていた。城守は思わずつぶやいた。 「……雪女がでた」 突如生まれた無風の空間で、その人物は粉雪と風を身に纏っていた。ゆったりとした薄緑色の長衣が風に舞う。長衣から覗く手足は、細くしなやかな様子が窺えた。肌は雪よりも白い。 唖然として動けない城守達に向けて、体重を感じさせない軽やかな足取りで、その人物は歩み寄った。 渦を巻く風で、長い金色の髪がふわりと宙を舞った。柔らかな髪に隠れていた顔が露わになる。 この世の者では無い、と城守は思った。余りに美しかった。猫のように大きな瞳が彼を興味深そうに見つめていた。年の頃は十代半ばであろうか。小さな口元に僅かに緊張の色が見て取れた。 城守は、まじまじと見つめられ、頬を寒さ以外の理由で染めながら「やっぱり、この世界のもんでねえ」と思った。 その人物の耳は長く尖っていた。 「あんた、何もんだ!この吹雪はあんたの仕業か?」 城守は尋ねた。答えが返ってくることは期待していない。正体不明の武装集団は、誰も彼も言葉が通じないのだ。 目の前に立った長衣の者は、鈴の音を思わせる声で、だが堂々と名乗りをあげた。 「わたくしは、リユセ樹冠国、西の一統リューリ・リルッカ。帝國に抗う南瞑同盟会議の命により、乞師として罷り越した。異世界の方よ。この国の宰相閣下にお目通り願いたい」 リューリと名乗ったその言葉は、確かに異国の言葉であった。だが、何故か城守には古風な名乗りが理解できた。 この日より、二つの世界は縁を結び、日本国は長い戦いに踏み込むことになる。